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棚橋弘至、再び奪われた新日本の主役。
新鋭スイッチブレイドとは何者か?
posted2018/09/27 08:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「オレがオカダに勝つのに何年かかったと思っているんだ」
棚橋弘至は忘れていた何かを思い出したように声を荒げた。
棚橋は9月23日、神戸ワールド記念ホールで来年1月4日の東京ドームで行われるIWGPヘビー級王座挑戦の権利証の防衛戦をオカダ・カズチカと戦った。
試合序盤に放った場外への飛び道具プランチャで着地の際、左ヒザを痛めた棚橋は、苦戦を強いられた。棚橋はオカダのその左足への低空ドロップキック、あるいは4の字固めといった足殺しに顔をしかめた。
「今度こそ勝つ番だ」と声に出して誓った一戦は、想像していたより過酷なものになった。オカダのキャラクターは依然として定まっていない。ただ、IWGPという看板タイトルは「オレのものだ」という自負がオカダにもあった。
長いこと、ほぼ死に体だった棚橋が生き返ってきていることは感じてはいたが、6月までは絶対王者と言われたオカダにとって、棚橋は決して難しい対戦相手ではないはずだった。
ハイフライフローとドロップキックの相打ちも。
「挑戦者」でありながらオカダには余裕が感じられた。共に勝手を知っている相手。双方にやりやすさとやりにくさが混在していた。
2人は過去の戦いの攻防をじっくりと振り返るかのように戦い続け、時間は刻々と過ぎていった。ハイフライフローとドロップキックの相打ちも何度か見たシーンだった。
だが、棚橋が痛がって見せた左ヒザは、試合が進むとアドレナリンのせいか、気力なのか、動くようになっていた。
場外でのパイルドライバーをオカダに決めると、棚橋はリングにごろごろと転がって戻り、コーナーに上がって場外のオカダめがけて決死のハイフライフローを放った。
終盤ではレインメーカーを1発浴びたが、気転の利いた切り返しでオカダを追い詰めた。きれいにドラゴンスープレックスを繰り出す力も残っていた。