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山崎康晃はなぜ魅力的な守護神か。
度胸と「ありがとう」が言える愛嬌。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byTetsuo Kashiwada
posted2018/07/02 08:00
マウンドに立つと不敵な表情で相手を抑え込む山崎康晃。試合前に見せた表情はとてもあどけないものだった。
ツイッターから広まった底なしの純真さ。
山崎のファンサービスにはスランプがないだけでなく、休日もない。何気ない日常をツイッターを通して世に発信し続けている。フォロワー数はNPB所属のプロ野球選手では最多の67万人超に膨らんだ。
初めてのツイートは2015年1月14日。新人選手としてDeNAの本社見学に向かう様子を写真付きで投稿した。
「あの時は電車移動で、(同期の)みんなと『ツイッターやってる?』という話になって。ぼくはそこでチャンスだと思ったんです。プロ野球選手がグラウンド以外でどんなことをやっているかって、知らない人が多い。こういう本社見学もしてるんだよとか、練習方法だとか。それを発信することで野球のすばらしさを伝えたいなという一心で、ほんと、何気なく始めたんです」
同僚の素顔やオフの過ごし方などをユーモアを交えて伝える山崎のツイートは、チームとファンをつなぐ小さな窓となった。そしてフォローを始めた人々は知ることになるのだ。この若者の底なしの純真さと、照れを知らないストレートな感情表現を。
母に「ありがとう」の一輪の花。
山崎は言う。
「自分のタイミングで、気分でやってますね。記録を樹立した時とか、遠征先でおいしいごはんを食べた時とか……。楽しいこと、おもしろいこと、喜ばしいことをみんなで共有したい。そういうツールになればいいなと思ってます」
この春には自伝『約束の力』が出版された。実働3年で本が出ることも人気の表れだが、その中に山崎の本質が垣間見えるエピソードが記されている。
帝京高校2年時、勉強と練習の両立に耐えかねた山崎は野球を辞める決心をする。だが母がそれを許さない。タクシーに息子を押し込み、「帝京高校以外では降ろさないでください」と強制登校させた。この日を境に再び野球に向き合うことになるのだが、山崎はその帰り道、母に「ありがとう」を伝えたくて一輪の花を買ったという。
思春期真っただ中、仮に親への感謝の念を持ったにしても、形にして表すことは難しい。山崎は、それができる男なのだ。