Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
山崎康晃はなぜ魅力的な守護神か。
度胸と「ありがとう」が言える愛嬌。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byTetsuo Kashiwada
posted2018/07/02 08:00
マウンドに立つと不敵な表情で相手を抑え込む山崎康晃。試合前に見せた表情はとてもあどけないものだった。
康晃ジャンプは本人が望むところ。
そもそも康晃ジャンプが誕生したのは、山崎自身の導きによるところも大きい。アメリカの大学のバスケットボールチームが『Kernkraft 400』を応援に使っている光景をYouTubeで目にし、横浜スタジアムもこんなふうになればとの思いで同じ曲を選んだ。
その話を聞きつけた実況アナウンサーとのツイッター上でのやりとりが拡散、瞬く間にファンの間にも定着した。スタンドの盛り上がりを最高潮に高めるのは、山崎本人が望むところなのだ。
そうして降りかかる重圧も、「跳ね返してやる」の一言で一蹴してしまう。実際、打たれてクローザーを解任される経験もしながら、必ずひと回りたくましくなって元の座に戻ってきた。このポジティブさ、どう転んでもネガティブな思考に陥らないところが山崎らしさだ。
サファテにできるなら、おれにも!
昨シーズン、ホークスとの日本シリーズ第6戦。山崎は1点リードの9回裏に登板し、内川聖一に決め球のツーシームをすくい上げられ、同点ソロを浴びた。延長戦にもつれたすえにベイスターズは敗れ、シリーズの軍配はホークスに上がった。
敵軍の守護神サファテは9回に現れ、同点に追いついて迎えた10回、そして11回にも登板して剛球を投げ込み続けた。
1イニングでマウンドを降りた山崎の目に、その姿はどう映っていたのだろうか。
「はっきり白と黒が分かれたなと。ぼくはもうベンチに座って、指をくわえて見ているしかない状態で、『またサファテが行くの?』『え、次もサファテ?』と……。これが強いチームのクローザーなんだって思いましたね」
続く言葉が、普通のロジックとは異なる。
「そういう姿を目の前で見られたのも、ぼくの成長だと思うし、自信に変わると思う。『サファテがこれだけできるなら、おれにもできる!』って、そんな気持ちにさせられました」
力の差を痛感して自信を失う。そんな思考回路は山崎の頭の中には存在しないのかもしれない。すごいものを見せられたなら、自分もそれを超えるものを見せてやろうじゃないか。そうやって前に進む男なのだ。