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巨人、日ハム、SBと渡った仕事人。
捕手市川友也はなぜ重宝されるか。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2018/06/20 10:30
2016年、大谷翔平がプロ野球最速の165キロを出したときにマスクをかぶっていたのが市川だった。
怪我人が続出したホークスが獲得。
その状況をホークスは見逃さなかった。
今年のホークスは、春先から捕手に災難が相次いだ。2月の宮崎キャンプ終盤、高谷裕亮が右肘痛を訴えて緊急手術。昨季一軍デビューしてA組に抜擢されていた4年目の栗原陵矢も、左肩脱臼のアクシデントで長期離脱を余儀なくされた。
この時点で一軍経験者が甲斐拓也1人となった。さらに3月のオープン戦では堀内汰門(3月27日に育成から支配下登録)も右手親指を脱臼。これは長引かなかったが、2年目の九鬼隆平は三軍戦で右手親指を骨折し手術を受けた。
かくして4月18日、市川の金銭トレードでのホークス移籍が発表された。
「シーズン途中でのトレードって選手は大変なんですよ」
自身の経験談を踏まえて話したのは、吉鶴憲治一軍バッテリーコーチだ。吉鶴コーチは'92年のドラフトでドラゴンズに入団。しかし、入団4年目の開幕後に「吉鶴・与田剛←→内藤尚行・森廣二」という2対2の交換トレードでマリーンズに移ることになった。
「球団から呼ばれて『明日、ロッテの合宿所に行ってほしい』と告げられたのを覚えています。急いで最低限の荷物をまとめて、名古屋から車を飛ばしました。当時は独身だったので、住んでいたところの片づけなどは知人に手伝ってもらいました。市川は家族がいるからその心配はないけど、逆に突然離ればなれになるんだからそれも大変だったと思いますよ」
捕手の移籍はとりわけ大変。
吉鶴コーチはさらに言葉を継ぐ。
「特に捕手は大変です。ボールをしっかり捕るためには個々のピッチャーの特徴や持ち球、変化球の曲りを覚えなくちゃいけないし、いいリードをするためには性格も把握しておかないといけない」
試合前の練習では、数日後に登板する先発投手がブルペンで投球練習を行う。その時間をあらかじめ予測して自分の練習メニューを工夫し、ターゲットの投手の動きを確認しながら自分もブルペンに急いでボールを受けたという。さらに試合中は流れを確認し、出番がしばらくないと見るや中継ぎ投手の相手役を志願した。
「1週間で大体の投手の球は受けることができます。それですべてが分かるわけじゃないけど、1度でも受けておけば安心感が違います。市川にもその調整法をアドバイスしました」