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ゴロフキンに村田諒太は敵うのか。
最強王者に打ち砕かれた2人の証言。
posted2018/04/22 11:30
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph by
AFLO
実際にリングで戦った日本人2選手の証言で真の世界の頂点までの距離を測る。
Number944号(2018年1月18日発売)の特集を全文掲載します!
東洋太平洋ミドル級王座の初防衛を果たした翌日、淵上誠は待望の世界戦が決まりそうだと聞いて純粋に喜んだ。2012年4月10日の朗報を、髭面に似合わぬ愛嬌のある口調で振り返る。
「会長に言われた時は、嘘だろ? と思って。おれ、夢見てんのかなって」
相手は名をゲンナジー・ゴロフキンといった。いま「リング」誌がパウンド・フォー・パウンドランキング1位に格付けるカザフスタン人は、当時30歳。アマチュアで世界を極めたのちのプロデビューから22連勝、WBAの王座を3度防衛中だった。
3年にわたり負け知らずだった淵上は、異国の試合を見る習慣がなく、だから敵の名も知らなかった。ただ自信だけがあった。
「試合が決まってから初めて映像を見て、それでも『このチャンピオンすげえ』とは思わなかったですね。なるほどこういうタイプか。相性としてもやりやすいほうだな。チャンスが来たなって」
勝てるはずがない――嘲笑にも似た下馬評は耳に届いていた。こういう時、己にかける言葉を淵上は持っていた。
「何が起こるかわからないのがボクシング。まずやってみなきゃ、わかんないじゃん」
パンチ、固いけど来たやつはいなせる。
試合は5月12日にセットされた。わずか1カ月の試合間隔も「減量をやり直す必要がない」とポジティブに受け止めた。トライアスロン選手で海外経験も豊富な妻を伴って、開催地のウクライナに入った。
自分のスタイルを崩すつもりはなかった。これまでどおりガードは下げ、持ち味の柔軟な身のこなしで揺さぶりをかけつつ、後半勝負に持ち込む。試合が始まり、拳を交わして、プラン遂行の確信を深めた。
「パンチ、見える。パンチ、固いけど来たやつはいなせる。これなら大丈夫」