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ゴロフキンに村田諒太は敵うのか。
最強王者に打ち砕かれた2人の証言。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byAFLO
posted2018/04/22 11:30
38戦37勝1引き分け、33KO。圧倒的な実績を誇るゴロフキンと、村田諒太が同じリングに上がる日は来るか。
1度目のゴング後、視界の右側が白んだ。
ところが1度目のゴングを聞いてコーナーに向かいかけた時、視界の右側が白んできた。サウスポーの淵上は追い払うような右のジャブで終始距離を保ったが、ラウンドの終わり際、ほんの数秒だけ頭をつけて打ち合う格好となった。右のまぶたが裂けたのは、おそらくその時だ。
「うわ……こんな時にカットかよって。2ラウンド以降は距離感がわからなくなって、すげえもらって。いままでにない感じ、鈍器で殴られてるような感じがしました」
王者は攻勢に出て挑戦者の流血は増した。第2ラウンド残り1分を切ったところで、右フックのダブルを顎、額の順に受けて尻から落ちた。立ち上がり、しのいで戻った青コーナーでマウスピースを外すと、前歯が「ボロボロボロって落ちた」。
決着は第3ラウンド1分16秒。2度目のダウンを喫したのち、ラッシュを見舞われレフェリーが試合を止めた。
全員ぶんのコーヒーを注文したゴロフキン。
深夜、ホテルに戻った淵上は、妻とロビーにいた。試合後に眠ったまま目を開けない選手が多いという伝承を恐れ、寝ずに過ごすことを習慣としていた。そこに、同宿の勝者が姿を現す。妻を通訳とした3人の会話が始まった。
「『フチガミ何してるんだい』って。『そうか、おれも寝ないんだよ』って。話してるうちに朝になってきて、現地のニュースで試合の映像が流れ始めて。ぼくが倒されるたびに顔を合わせて苦笑い、みたいな」
やがて淵上陣営のスタッフたちも客室階から降りてきた。それを目敏く見つけたゴロフキンは、いったん席を離れた。全員ぶんのコーヒーを注文しに行ったのだ。
淵上はここで初めて降参した。
「世界でいちばん強い男って、やっぱりそうなんだなと思って。腹が立ったらいつでもボコボコにできるわけじゃないですか。誰かに強がったり威嚇したりしないし、誰にでもやさしい。負けた時は悔しかったけど、なんか晴れましたね」
その後のゴロフキンの試合を見るようになって、気づいたことがある。
一つは、あのカットがどうやら偶然ではなかったらしいということだ。