野ボール横丁BACK NUMBER
大谷翔平の本質を示すエピソード。
「イラッときたら負けだと思ってる」
posted2018/04/20 08:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
AFLO
つかみどころがない――。
今、日本でもっとも語られることが多い野球選手、大谷翔平の印象である。いや、それこそが大谷だとも言える。
日本ハムの球団関係者に、大谷の人物像を訳知り顔で語り、こう釘を刺されたことがある。
「彼は別世界の人間だから。自分の言葉をあてはめると、余計、わからなくなるよ」
その通りである。
このセリフは、物を書くことで人物を表現しようとする人間に対する警鐘でもある。
自分の言葉の貧しさに無自覚なまま、その人物を表現したつもりになって、その実、対象を自分の言葉に閉じ込めてしまうことがある。結果として、魅力を伝えるどころか、魅力を削いでしまうことになりかねない。
大谷は前例のない選手である。となれば、従来の言葉では本来、大谷を正確に伝えることはできないのではないか。
「イラッとすることはないの?」
私も数度、大谷をインタビューしたことがある。その中で、大谷をわずかながらもつかめたと思えたのは、たった一度である。
入団3年目の春のキャンプのときだった。前年に「11勝、10本塁打」というダブル二桁を記録した大谷は、すでに球界の顔となっていて、休日も含めて毎日1件以上の取材をこなしていた。
しかも、私が取材したのは2月26日である。つまり「26連勤」中だった。
にもかかわらず、大谷は終始にこやかに取材に応じた。
取材の最後に、思わず「変なこと聞かれて、イラッとすることはないの?」と尋ねると、ニンマリとして言った。
「イラッときたら、負けだと思ってるんで」
ああ、これが大谷という男なのだと思った。