マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「選手の夢」欄に出るセンバツの姿。
プロ志望と普通の高校生が戦う奇跡。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/03/29 06:30
大阪桐蔭を相手に、1人で8回まで24のアウトを積み重ねた伊万里・山口修司。それだけでも誇っていいことだ。
緩い球でもためてジャストミートする大阪桐蔭。
試合が始まった。
ここでも、「さあ、見せてやるぞ!」とガンガン振ってくるのかと思ったら、大阪桐蔭の1、2、3番、決して強振しない。
“ロングティー”のような打ち方で、視線を定めて頭を動かさず、投球に逆らうことなく、素直にライナーを打ち返す。燃え過ぎない、だからといって決して当てにいっているわけじゃない、ほど良いフルスイング。
ストレートで120キロ前後。変化球だとそれより10キロ以上遅くなる投手が相手なら、腕に覚えのスラッガーほど、「ここで一発!」の“欲望”がメラメラ燃え上がるのが普通だが、ベンチからの指示もあるのだろう、打者の一人ひとりが抑制の効いた合理的なバッティングを続ける。
100キロちょっとの変化球すら、我慢に我慢を重ねて、逆方向へジャストミートしてくる。すばらしい技術だ。
伊万里・先発の山口修司投手も、懸命にコースを狙って緩急を使う。しかし、相手打線が燃え過ぎてくれないと、こういうピッチャーはつらい。最初の2イニングで8点を奪われる。記録的失点の想像が頭をよぎる。
「もっと遅く、もっと遅く……」
しかし、4回で12点を奪ったあたりから、大阪桐蔭打線が徐々に“のめる”ようになってきた。
少し前までは、しっかり捉えていた伊万里・山口投手の“緩球”に、大阪桐蔭の打者たちの体が突っ込んで、打ち損じが続く。
何が変わったのか。伊万里・山口投手の投げ方が変わったように見えた。
失点を重ねた試合前半は、一生懸命投げる遅いボールがジャストミートを繰り返された。それが今は、「もっと遅く、もっと遅く……」。そんな投げ方に変わってきているように見える。
思い出した場面がある。東京六大学リーグ戦だ。
東京大学が相手を破る、もしくは苦しめる試合が、ちょうどこういうパターンだった。
近年の「東大」なら、昨年の宮台康平投手(現・日本ハム)のような球威で勝負できる投手もずいぶん現われるようになったが、かつてはスピードが劣る代わりに、両サイドのコントロールと緩急を駆使して、気負った相手打者たちを翻弄する好投手が何人もいたものだ。
彼らが好投している時、おそらく、「もっと遅く、さらに遅く……」、そんなつぶやきを続けながら投げているような、そんな独特のピッチングワールドを感じたものだった。