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キタサン満票を阻止した障害の名馬。
オジュウチョウサンの絶対王者ぶり。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAFLO
posted2018/01/30 17:00
障害馬でこれほどの知名度、人気を持つオジュウチョウサンは極めて突出した存在だ。
石神騎手が気づいた「全力ではないのでは」。
そんなオジュウチョウサンが、いつ、なぜ、どのように「変身」したのか。
きっかけとなったのは、この中山大障害だった。
レース後、すぐに息が戻ったオジュウチョウサンの背にいた石神は、馬が全力を出し切っていないように感じた。そこで和田調教師に、メンコの耳覆いを外してはどうか、と進言した。
それまでは、気性的に難しいオジュウチョウサンを走りに集中させるために、耳覆いをつけて音を遮断させていた。それを、すべて聴こえるようにすることで落ちつかせようとしたわけだ。逆効果になる恐れもある、一種の賭けだった。
答えは「吉」と出た。
動きに俊敏さが出てきて、鞍上の指示に対する反応もよくなった。「走ることに対して前向きになった」と、石神と和田調教師は口を揃える。
'16年初戦のオープンこそ2着に敗れたが、つづく中山グランドジャンプを勝ち、障害重賞初勝利をJ.GI制覇で飾った。
ステイゴールド産駒らしい気性の荒さは健在。
そこから快進撃が始まった。同年の中山大障害、翌'17年の中山グランドジャンプ、中山大障害という3つのJ.GIを含め、障害重賞を8連勝。障害グレード制が導入された1999年以降の重賞最多連勝記録を樹立した。J.GI4勝というのも最多記録である。
どの勝利も見事だったが、特に、大逃げを打った'15年の最優秀障害馬アップトゥデイトをレコードで差し切った前走の中山大障害は圧巻の強さだった。
おそらく、耳覆いを外して走ることに対する姿勢が変わった時期と、肉体的な成長曲線の上昇期とが合致し、これほどのパフォーマンスを発揮できるようになったのだろう。
ただ、レースに集中するようにはなっても、トレセンにいるとき、後ろ脚で立ち上がったり、尻っ跳ねをしたりと、普段からうるさいところは今もあるという。そのへんは、オルフェーヴルやゴールドシップにも見られたように、能力の高いステイゴールド産駒に共通するところか。
ともあれ、走るたびに自身の記録を更新していくオジュウチョウサンが現れたことにより、障害レースに対する注目度はとみに高まっている。