ラグビーPRESSBACK NUMBER
決勝で1点差、極限の緊張感の中で。
帝京と明治が見せたラグビーの真髄。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNobuhiko Otomo
posted2018/01/13 11:30
帝京大の9連覇。その事実だけでは語れない80分間の激闘が秩父宮にはあった。
望んでいない状況こそ楽しいというメンタル。
堀越は試合終了1分前のプレーで、プロフェッショナルファウル(故意の反則)を犯したと見なされ、イエローカードを科された。ラグビーのイエローカードは、10分間の一時的退場を意味する。キャプテンの重責を担う身が、残り1分という正念場でピッチを離れる。ましてや点差はわずか1点だったのだ。そこに不安はなかったのだろうか。
「正直、グラウンドで優勝を喜び合いたかったという気持ちはありますが、自分の無駄なプレーからシンビン(一時的な退場処分)になってしまった。それは今後の反省として活かします。仲間たちが『あとは任しとけ』と声をかけてくれて、頼もしく思えたし、何よりも仲間を信じて、外から見ていました」
ゲームの中で、望ましくない状況が生まれても焦らない。むしろ、望んでいない、苦しい状況こそ楽しいのだというメンタリティ。それを1年間かけて身につけてきたのだと堀越は言うのだ。
明治・古川主将も大ピンチに「楽しいな」。
「楽しい」という言葉は、堀越の発言に先立つこと約10分、敗者となった明治大学の会見でも聞かれた。古川満キャプテンは、1点リードされて迎えた残り4分、自陣ゴール前に攻め込まれたピンチの心境を問われ「楽しいなと感じました」と言ったのだ。
この場面、帝京大はPGを狙える位置でPKを得たが、4点差に広げて自陣に戻るよりも、敵陣に居座り、スクラムからトライを狙う策を選択した。
1点を追い、わずかな残り時間に逆転を狙う側にとっては焦り、あるいは「PGを狙ってくれないのか」という落胆があってもおかしくないように思えた。しかし1点を追う明治側も、この戦いを楽しんでいた。
「この舞台で、最後に自分たちがこだわってきたスクラムを出せる。堀越もそれを選んでくれて、最後に意地と意地のぶつかり合いで、お互いに負けられない。やってきたことを出し切る。それが楽しいなと思いました」