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あのドラ1・田中正義のプロ1年目。
二軍1試合登板後、「工藤塾」へ。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2017/12/26 11:30
黙々と練習に励み続けている田中。今季唯一の登板となった9月のウエスタン・リーグ阪神戦では、全42球で最速149キロ、3回2安打2失点という数字だった。
工藤塾で叩き込まれる、特別なトレーニング。
11月の宮崎秋季キャンプ。
田中は、今やホークスの秋の名物となった「工藤塾」で毎日のようにみっちりと鍛えあげられた。わずか数日間だったが、大いに意義のある時間となったのではなかろうか。
工藤公康監督いわく「長く現役でやるのに必要なものを作り上げる為」に考案したとされるおよそ10種類ほどのメニューを一日3時間近くかけてほぼ毎日行う。多くの若手選手が参加したが、工藤監督が特に付きっきりで指導したのが、田中、高橋純平、小澤怜史、長谷川宙輝の4人がいたグループだった。
体幹や股関節周り、内転筋、ハムストリングなど比較的鍛えにくいとされる部分に効率よく負荷をかけていく。なおかつ投球に繋がる動作も体に覚えさせていく。
「ほら、全力で! 最後まで!」
大きな声で“塾長”から発破をかけられる。田中は苦悶の表情を浮かべたまま右腕でゴムチューブを上下させたりハードルを飛び越えたりと、日々奮闘を繰り返した。
“工藤塾の一期生”東浜巨、千賀滉大、岩嵜翔の3人。
「ほぉ、正義が一番いいね」
トレーニングの様子を眺めながら、工藤監督がにんまり笑った。
田中は走ったりジャンプをしたりする時の姿勢が、明らかに周りの選手よりも美しかった。他の若手は前傾姿勢になり過ぎているように映った。
「人間の体は無意識に使用する強い部分と日常であまり使わない弱い部分がある。もちろん左右の差もあるけど、下半身だと前側の方が強いよね。何も考えずにトレーニングをすると、強い方で頑張ろうとする。そうなると、そのメニューで本来鍛えたい太ももの裏側は鍛えられず、さらにバランスの悪い体になってしまう。バランスが悪ければ故障にもつながりやすい。それは一番良くないこと」
工藤監督が就任して3年間で2度も日本一に輝いたが、'15年と'17年の日本一では特に投手陣のメンバーは様変わりした。
工藤ホークス2度目の日本一で大きな力となったのは、最多勝の東浜巨、勝率第1位の千賀滉大、最優秀中継ぎの岩嵜翔の3人。彼らは前回日本一になった年はいずれも、まだ一軍の戦力として計算をされた存在ではなかった。
彼らは「工藤塾の1期生」と言われている。