野球のぼせもんBACK NUMBER
あのドラ1・田中正義のプロ1年目。
二軍1試合登板後、「工藤塾」へ。
posted2017/12/26 11:30
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
本格的な夏到来の前だったか、田中正義がみるみる痩せていった時期があった。
しかし、本人に問うても「みんなに言われますけど、体重はそんなに変わっていませんよ」と強がるように返された。いや、明らかに見た目が違うではないか。ちょっとしつこく食い下がってみた。すると「じつは今は体重を落としているんです。意図的に。理由は、今は言いません。また改めて」と“白状”した。
もともと控えめな性格。饒舌なタイプでもない。あの時の田中は、照れ笑いとも苦笑いとも言えないような何とも微妙な表情だった。
そして結局、答えが示される時は来なかった。
苦悩のまま、ルーキーイヤーを終えた。一軍登板ゼロどころか、公式戦は二軍でも1試合に投げただけ。多くの時間を右肩のリハビリに費やした。
田中にとってホークスは最適な球団だったはず。
大学時代に右肩を痛めていたことは周知の事実だった。それでもドラフト会議では5つもの球団が1位指名で競合したほど、魅力に溢れた投手であることに疑う余地などない。
また、ホークスは田中にとって最適な球団だったはずだ。
現状戦力を考えれば中途半端な状態で起用される心配はない。本当にスケールの大きな投手に育て上げるためならば、時間はかかってもいいというスタンスを持っている。
だが、周囲はそれで良くても、田中本人は1年目からの活躍を夢見てプロの世界に飛び込んだに違いなかった。
「ただ、いくら後悔しても、過去には戻れないですから」
シーズン終了後にぽつりとそんな声を漏らしたという話を人づてに聞いた。
果たして、田中は巻き返せるのか。筆者は、ホークスのオフ取材の大きなテーマの1つだと考えていた。