マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
マウンドと傾斜が違うブルペンって。
野球が上手くなるための意外な視点。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/12/26 07:00
阪神園芸が管理する甲子園のマウンドが常に一定なのは有名だが、日本中の球場がそのクオリティを維持できるわけではない。
新しい練習法の話で、野球指導者は真顔になる。
「先生、ウチ、ほんと怖いかもしれないですよ。おとといですよ、生徒がへんなこと言ってきたんですよ」
「おー、何よ?」
「ボール2個置ける“置きティー”ってないんですか? って」
一瞬、みんな黙る。みんな考えている。
呑む手が止まっている。
「僕もわからなかったんですよ。ボール2つ置くって、その意味が。そしたら、そいつが言うんです。『自分たちはみんな体が小さいんで、いい打球なのに内野手に捕られてしまう。振り抜く力が足りないんだと思います。実際に打つボールの前にもう1つボールを置いて、その奥のボールのほうを飛ばす意識でティーバッティングやったら、違ってくるんじゃないかって、みんなで話したんです』」
「お前んとこ、ほんま怖いわ……オレも帰ってなんか策考えな。こんなとこで、呑んでる場合ちゃうで」
ベテラン指導者が「おくにの言葉」になっていた。
わいわい語り合っていたみんなが、醒めた顔になって店を出て行く。
野球のオフも、ぞくっとくるほど面白い。
この国の野球は、ボールの音のしないこの時期に生まれているのかもしれない。