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非情マクラーレンとホンダの涙。
掌返しに耐えたスタッフの3年間。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2017/12/03 08:00
マクラーレン・ホンダ最後のレースとなったアブダビGPにて、ホンダのチーフエンジニア中村聡は最後まで仕事を貫いた。
今季は開幕戦から冷たくあしらわれる日々。
異変に気がついたのは、開幕戦のオーストラリアGP。ホンダのスタッフがマクラーレンのガレージに入って行ったときだった。あいさつをしてもこれまでのようにフレンドリーな反応ではなかった。
「それは私に対してだけでなく、ホンダのエンジニアすべてに対して、そうなっていたようです」(中村)
こちらが困ったことがあって、何か技術的な相談をすると、これまでなら「どうしたんだ」といって一緒に考えてくれたが、今年は「いつまでそんなことやってるの?」と冷たくあしらわれたことも少なくなかった。
もちろん、その原因を作ったのはホンダである。そのことは中村もわかっていた。だが、苦労を共にした1年目、一体感を強めた2年目の経験があったからこそ、3年目のマクラーレンの掌を返したような対応が、ホンダのスタッフの胸に刺さった。
第3期を知るスタッフでも、こんな不遇はなかった。
中村にとって、F1での仕事は今回が初めてではない。F1のキャリアをスタートさせたのは'98年。無限のスタッフとしてジョーダンに参加した。ホンダがジョーダンへの供給も決定した'00年の末にホンダへ移籍。'01年からホンダF1のエンジニアとして、ホンダが撤退する'08年までF1という戦場で生き残ってきた。
その長い経験を持つ中村でも、今年以上に辛い思いをしたシーズンはなかった。人知れず、涙した日もあった。中村だけではない。現在のホンダF1の中には、ホンダの第3期活動からF1の世界でもまれてきたスタッフも数多くいる。その彼らでさえ、ここまで打ちのめされた経験はなかった。