F1ピットストップBACK NUMBER
非情マクラーレンとホンダの涙。
掌返しに耐えたスタッフの3年間。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2017/12/03 08:00
マクラーレン・ホンダ最後のレースとなったアブダビGPにて、ホンダのチーフエンジニア中村聡は最後まで仕事を貫いた。
「辛いです」「絶対に見返してやろうじゃないか」
「辛いです。もうやってられません」
精神的に疲弊し、中村に相談を持ちかけてきたエンジニアもいた。これでは共倒れしてしまう。そう思った中村は苦しみをホンダのスタッフで共有することで、苦境を乗り切ろうとした。
「俺も同じ気持ちだ。お前の気持ちはよくわかる」
孤独な戦いから解放されたスタッフに、中村は言った。
「このまま終わるわけにはいかない。絶対に見返してやろうじゃないか」
結果、現場を去る者は誰ひとりいなかった。
そんな状況で迎えた、マクラーレンと組んだ最後の戦い。フェルナンド・アロンソが9位でチェッカーフラッグを受けた後、テレメトリールームを出た中村は、ガレージで仕事をしていたホンダのメンバー全員と握手した。
中村の目にも、ホンダのスタッフの目にも、涙が溢れていた。