“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
高卒1年目18歳にして鹿島の切り札。
安部裕葵が持つ「柔軟性ある芯」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/11/09 16:30
試合の流れを変える大きな存在感を持った18歳の安部。代表チームでも、より一層の活躍が期待される。
怪我をしていても、人一倍他人の練習に付き合う男。
強烈に印象に残っている光景がある。
それは昨年2月に瀬戸内高校の取材に学校グラウンドまで行った時のことだ。
新学年のチームが立ち上がり、練習が熱を帯びる中、1人だけジャージに普通の靴を履いて佇む安部がいた。
怪我のため、練習に参加出来なかった時期だった。
練習をただ見ているだけでなく、ボール拾いやマーカーを置いたりするなど、練習を手伝いながら真剣な表情で仲間を見つめていた。
「ずいぶんと熱心にやっているな……」と思って見つめていると、それに気づいたのか、筆者のそばに寄って来て、こう言ったのだ。
「今日は取材ですか? 僕、今は練習出来ないんですが、絶対にプロになるんで見ていて下さい」
正直驚いた。
でも、その時の彼の表情は冗談を言っているものではなかった。
こんな、鋼のように強靭なメンタリティーを持った選手は、そういない。
鉄壁の市船守備陣から得点した唯一の選手。
練習が出来ないにもかかわらず、あれだけ真剣なまなざしで練習をサポートし、時には声で仲間にアドバイスを出しながら参加している姿を見たら、彼が言葉だけの人間では無いことがすぐに分かる。
怪我から復帰した安部はすぐさま頭角を現した。
プリンスリーグ中国でゴールを量産すると、ターゲットとしていた地元開催のインターハイでも瀬戸内の攻撃の中枢として君臨し、ベスト8に進出した。
準々決勝の相手は、その大会で優勝を成し遂げた市立船橋だった。この試合で彼は得意のドリブルとワンタッチプレーの絶妙なバランスを駆使して、バイタルエリアでキレのある動きを見せた。1-2で敗れはしたものの、杉岡大暉(現・湘南ベルマーレ)と原輝綺(現・アルビレックス新潟)を擁し、鉄壁を誇っていた市船守備陣を大会通じて唯一こじ開けたのが安部だったのだ。