マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広陵・中村奨成の本質は守備にある。
配球からまめさまで、肩以外も凄い。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/23 11:30
中村奨成の総合力は、今大会で明らかに頭ひとつ抜けている。清原和博の大会本塁打記録も抜いて、決勝は勝つだけだ。
140キロの速球も変化球もノーサインで捕球する。
取材が終わりかける頃だった。中井監督が興味深いことを教えてくださった。
中村奨成捕手はバッテリーを組む平元銀次郎投手の140キロ台の速球も、落差の大きなタテのスライダーも、ブルペンではノーサインで捕球している、という。
中井監督がある方に教わったキャッチング上達術。それが、「ノーサインキャッチング」だった。
「こいつ、始めた最初の日から、ぜんぜん普通にパンパン捕りよりましたから」
うれしそうに笑いながら、ほんとに驚いていた。
広陵高・中村奨成の“甲子園6弾”にばかり目を奪われていてはいけない。
確かに彼のバッティングは、この甲子園で試合を重ねながら上手くなっている。予選まではアッパー気味なことが気になったスイング軌道も、今は見事にレベルに振れているし、それ以上に、自分のストライクゾーンで伸びやかにスイングできているのは、彼自身が自分のバッティングに確たる自信を持ち始めている何よりの証拠だろう。
走者にほとんど塁を離れさせない肩。
しかし私は、彼のすばらしさの本質は“ディフェンス”だと考えている。
今日の決勝戦。甲子園の現場で生のプレーを追いながら、またテレビの映像で照らし合わせながら観戦していただいたら、興味もまた一層なのではないか。そう思っている。
大会前から、中村奨成の“鉄砲肩”だけは伝えられていた。遠投で、あっさり外野フェンスを越えてしまう地肩の強さもさることながら、彼のスローイングには敏捷なフットワークという強力な味方がある。
準決勝の天理戦、3歩ほどしかリードをとっていない二塁走者を刺しにいったフットワークと“猛肩”のすごかったこと。判定はセーフだったが、テレビの映像では走者の足は戻りきれていなかった。
「ランナーの足がベースに付いていなければ、刺せる」
昨秋の取材ではそんな強気な表現すらしていたが、それがただの威嚇でないことを、彼は準決勝の二塁けん制で証明してくれた。