いちばん最後まで高校野球ができる幸せ者たち。

　さらに、緩急だ。

　象徴的な場面が、準決勝の天理戦のゲームセットの場面だ。

　右打者を外のスライダーで追い込んでおいて、勝負球はヒザ元へ。

　ゆるいボールの後なら、まず間違いなく速いヤツだ。

　そんな打者心理を読んだかのように、待ち構えていた打者を、まずバットに当たらないコースに投げさせて、「来た！」と思った打者のスイングはもう止まらない。

「なんであんなボールを振ったんだ！」

　痛恨の空振り三振に、もう号泣が始まっているその打者の背中に、ちょっと捕球しそこなった中村奨成が、普通の顔でボールを拾ってタッチしていた。

　さあ、今年の夏の甲子園も、残り1試合になった。

　日本じゅうの高校球児の中で、いちばん最後まで高校野球ができる幸せ者たちが、いったいどんなフィナーレを飾ってくれるのか。

　私も行く夏を惜しみながら、この夏最後の高校野球に胸ときめかせようと思う。

　試合の展開を追う合間に、実はディフェンス名人でもある中村奨成捕手の仕事にも目を向けていただいて、このコラムの“答え合わせ”でも楽しんでいただければ……と、そんなふうにも思っている。