マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広陵・中村奨成の本質は守備にある。
配球からまめさまで、肩以外も凄い。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/23 11:30
中村奨成の総合力は、今大会で明らかに頭ひとつ抜けている。清原和博の大会本塁打記録も抜いて、決勝は勝つだけだ。
“強肩自慢”のスローイングとは全く違う。
強肩の選手はえてして、見せてやろう! と力任せになりがちなものだ。
シートノックでの外野手からの返球を見ていても、強肩自慢にしかなっていない実戦力ゼロの強肩をよく見かけるが、中村奨成のスローイングには、そうした“昂ぶり”が見られない。そこがすごい。そういう場面があったら、ぜひ見逃さないでほしい。
彼の視線はスローイングの“標的”に狙いを定めてからボールを投げ終わるまで、ずっと標的を見つめ続け、必要以上に力を出しすぎて、その反動でヘッドアップするようなことは決してない。
まめさも、捕手にとって重要な資質のひとつ。
さらに、リードと配球面について讃えよう。
腰を下ろして、投手にサインを送ってミットを構える前に、彼は必ず“ひと仕事”行なっている。
両手を大きく広げて投手にリラックスをうながしながら、あまりコースにこだわらずに、大胆に腕を振ってこい! とアクションで伝える。その動作にはわざとらしさがなく、逆に包容力とでもいうのか、やさしさとか、人間味のようなものすら伝わってくる。
時には右手で二塁手の守備位置を動かしたり、ミットの左手で三塁手にセーフティバントの予感を伝える。
そうした伝達を行なう捕手はいることはいるが、彼がすごいと思うのは「まめ」であることだ。
捕手は、これが大切だ。めんどくさがりの横着者に、捕手は務まらない。
まめに何かをいちいち伝えながら、自分の描いたプランの通りに守りの時間を進めていく。これは、捕手という仕事の何よりの醍醐味だ。
右打者を打席に迎え、投手に内角速球のサインを出し、三塁手をちょい前に詰めさせておいて、そこにどん詰まりのゴロが転がった時の捕手の快感は、ほかの8人には決してわからない。
間違いなく、そうした捕手の面白さを、中村奨成は実感し始めている。だからこその“まめなシグナル”なのだ。