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松坂大輔との春夏連覇から19年――。
小山、小池、後藤がそれぞれ歩む道。
posted2017/08/11 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
いつの日か対峙せんとして果たせなかった男がいた。
それぞれの路は続く。見上げれば彼はそこにいる。
Number926号(4月26日発売)の特集記事を全文掲載します。
小山良男はこの19年、必死で自分をあの夏から前に進めようとしてきた。
「後ろを振り返らないという意味でも高校時代について取材は断ってきたんです」
どんなシナリオもかなわない戦いの末、甲子園のマウンドでガッツポーズした松坂大輔に真っ先に抱きついたのは小山だった。怪物と1つのフレームに収まったそのイメージは他者の中で永遠になり、そこから小山に対する時間は止まった。
亜細亜大に進み、先輩投手のボールを受けると、こう言われた。
「すまんな。松坂より遅いだろ」
苦笑いで言うしかなかった。
「そんなことありません……」
球場では試合にも出ていない1年生の小山が記者たちに囲まれた。
「松坂くんがまた勝ったけど、どう?」
いつしか、苦笑いが顔に張り付いた。
「僕は小山なのに。先に進もうとしているのに……」
そして2年時の大学選手権、優勝を決めるホームランを放った小山は先輩たちと抱き合い、涙した。翌朝、胸を躍らせて新聞を買ってきたが、見出しに絶句した。
「あの松坂とバッテリーを組んだ小山がいる亜細亜大が優勝したという感じだったんです。寂しかったですね。僕は亜細亜大の小山なのに。先に進もうとしているのに、なぜ昔の話ばかりなのかって……」
1歩、1歩、人生を進めてもいつも過去に引き戻される。6年遅れてのプロ入り。実績という点で松坂の背中はもう見えないほどになっていたが、周りはその差をなかったことにして小山を見る。重かった。だから高校時代について、松坂について、公には口を閉ざした。中日黄金時代の裏で実働3年、9試合出場という足跡を残してひっそりとユニホームを脱いだ。