球体とリズムBACK NUMBER
18歳に129億円の値札がつく異常さ。
サッカー移籍市場バブルの行く末は?
posted2017/07/21 07:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
AFLO
マイケル・ムーアはドキュメンタリー映画『キャピタリズム』で、行きすぎた資本主義がアメリカにもたらした悲劇的な側面を描いた。自由競争の名目のもと、ごくわずかな超富裕層だけがさらに肥えていき、残りの大多数は巧妙に搾取され、なかには先代から守ってきた土地や家を失う人々さえいる。リベラルなロマンチストではなくても、この状況を理想の社会と考える人は少ないだろう。
映画の公開から約8年が経過した今も、世の中はそれほど変わっていない。だからなのか、先日、G20が行われたハンブルクでも暴動が起きた。残念ながら、人類はまだキャピタリズムに代わるシステムを持たないが、この階級的な制度の歪みがいよいよ顕著になっているような気がする。
ルカクに対して110億円もの移籍金を支払ったマンU。
フットボールの世界でも、資本主義に拍車がかかっているようだ。今年も恒例の夏の移籍市場が幕を開け、この2週間ほどの間に、非現実的な額のディールがいくつも締結されている。現時点における今夏の移籍金の最高額は、マンチェスター・ユナイテッドがロメル・ルカクの獲得に際してエバートンに支払った推定7500万ポンド(約110億円)。付帯条項をすべてクリアすれば、その額は9500万ポンドに上るという。
ユナイテッドは昨夏、2012年にタダ同然で手放したポール・ポグバの再獲得に、推定8930万ポンドもの移籍金をユベントスに支払った。これは史上最高額を更新しただけでなく、さらなるインフレの引き金になると見られている。
大富豪のアメリカ人オーナー、すなわちキャピタリズムの勝者によって運営されているユナイテッドは、国際監査法人デロイトが発表する最新の『フットボール・マネー・リーグ』で首位に返り咲いた。
年間5億1530万ポンド、日本円にして約757億円と、世界で最も収入の多いフットボールクラブにとって、100億円ほどの移籍金は痛くないのかもしれないが(5年契約のため、帳簿上の支出は年間1500万ポンドとなる)、競合から見れば、はた迷惑な文字通りの“赤い悪魔”だろう。