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3度の大ケガ、リハビリ、引退危機。
FC東京・米本拓司、絶望からの帰還。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/07/18 08:00
万感の思いを持って味スタへと帰還した米本。かつて将来の日本代表の中核候補と挙げられた男は、まだ26歳である。
「バルセロナに住みたいなって思ったぐらいでした」
米本と契約する事務所関係者がサポート役に回り、オフの日には気晴らしにアウトレットに行ったこともあった。孤独と過酷がいくらかやわらいだのは、周りのおかげだと心から感謝した。
「日本に帰る際はちょっと寂しくなりました。毎日、施設まで送ってくれるタクシー運転手がいるんですけど、別れるときは悲しかった。バルセロナに住みたいなって思ったぐらいでしたから」
引退まで頭にあった絶望は、希望にはっきりと変わっていた。
日本でも懸命にリハビリをこなし、不屈の精神でピッチに戻ってきた。
同じ経験をした明神智和からのメッセージ。
復帰の舞台は、U-23のオーバーエイジ枠で入った4月30日のアウェイ、J3長野パルセイロ戦。後半32分から出場を果たした。
試合後の取材エリアで、今季から長野でプレーする元日本代表の明神智和が米本のところに歩み寄り、右ひざを両手でさすったという。ひざの前十字を3度手術してなお復帰にたどり着いた後輩のボランチに、最大限の敬意を込めて。
後日、明神に話を聞いた。
「ヨネとは何回も対戦してきて、試合しているなかで“凄くいい選手だな”と思ってきました。大きいケガしてもこうやって戻ってきて、僕自身がワクワクしているし、まだまだ強く、うまくなれるなって思っているので。一番は、もうケガをしてほしくない。取材を受けているヨネがいたので、思わずさすろうかなって」
あれから2カ月が経ち、チューンアップを終えた米本の完全復活のときは近づいている。今季初先発で連敗を止め、チームが上向いていくきっかけをつくった。
ケガを怖れない、ミスを怖れない。積極果敢な“米本スタイル”は以前と変わらない。
「ケガしたらケガしたで仕方ないって割り切ってやっているんで。それはもう本当に」
成るようにしか成らない。乗り越えてきたものが大きいからこそ、逆にそうサバサバと言えるのかもしれない。
「米本拓司」を貫く。それだけだ。