イチ流に触れてBACK NUMBER
黒田博樹は何故イチローに会いに?
電話やメールじゃない直接のひと言を。
posted2017/06/15 11:30
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
少し前の話になる。
5月18日。マーリンズは今季最初で最後のロサンゼルス遠征でドジャースタジアムを訪れていた。
その初戦、ドジャースはロサンゼルスの日系コミュニティーへの感謝の気持ちと、自軍に在籍した野茂英雄から前田健太に至るまでの日本人選手7人の功績を称え、毎年恒例の『ジャパン・ナイト』を開催した。
無論、日本人選手で最高の実績を残し、昨季メジャー史上30人目の3000安打を達成したイチローに対する敬意もこの日を『ジャパン・ナイト』として選んだ理由にあったであろう。
そして、試合前。フィールドには昨季限りで現役を引退した元広島の黒田博樹氏の姿もあった。'08年のメジャーデビューからの4シーズンをドジャースで過ごし、その間に挙げた勝ち星は41。在籍時に決まってキャッチボール相手を務めたサイヤング賞左腕クレイトン・カーショーと6年ぶりのキャッチボールを行い「いい思い出になるわ」と白い歯を見せる姿は、まさにドジャースOBそのものだった。
「イチローさんだ」と駆け寄っていった黒田。
黒田氏はドジャースが招いた『ジャパン・ナイト』のゲスト――そう思い込んだが、念には念を入れ、黒田氏に来場の目的を聞くと全く違った。
「いやいや、完全なプライベートで来ました」
リラックスしていた黒田氏の表情が変わったのは、イチローがフィールドに出て来た時のことだった。
「イチローさんだ」
意を決したかのように、三塁側のドジャースベンチ前から一塁側でアップをするイチローの元へ走り出したのだった。