イチ流に触れてBACK NUMBER
黒田博樹は何故イチローに会いに?
電話やメールじゃない直接のひと言を。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2017/06/15 11:30
ニューヨーク・ヤンキース時代のふたり。年齢は1歳違い。自らが重要な決断をした時には真っ先に連絡し合う仲である。
「引退しました」「知ってるわ!」
ふたりの再会はともにヤンキースに在籍した'14年9月28日のシーズン最終戦以来、963日ぶり。ひとつ歳下の後輩が頭を下げながら駆け寄る姿にイチローはサングラスを外し、満面の笑みで迎えた。
「おうおうおう、黒田!」
手を差し出すイチローが続けた。
「お疲れだったね」
労いの言葉は優しい表情から生まれたが、黒田氏は感傷に浸ることなく続けた。
「引退しました」
ど直球の言葉にイチローは大爆笑。
「知ってるわ!」
それでも黒田氏は“思い”を続けた。
「引退してからお会いしていなかったんで……」
ようやく彼の意を理解したイチローは頷き、嬉しそうに続けた。
「そうだね。わざわざありがとう。(引退発表前に)メールもくれたよね」
ふたりだけの特別な空間がしばらく続いた。
「絶対に試合を壊さない」「勉強させてもらっています」
ときにはメジャーでしのぎを削り、ふたりの対戦成績は6打数1安打、打率.167。黒田氏に分があった。
伝統球団ヤンキースでは、2年半チームメイトとしてともに戦った。
イチローが「黒田は絶対に試合を壊さない」と称えれば、黒田氏はどんな時でも変わらぬ準備を続けるイチローの姿に「言うほど簡単なことではない。本当にすごいこと。勉強をさせてもらっています」と最敬礼の日々だった。