Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和を陥れた最下位・大宮の超対策。
布陣を変え、キャプテンを変え……。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/05/02 17:30
金澤慎(左)と瀬川祐輔。さいたまダービー勝利の立役者たちは、圧倒的戦力差を覆しての勝利を喜び合った。
5バック相手でも点を取る浦和に対して……。
浦和に対して5バックを敷き、守りを固めようとしたチームはこれまでにいくつもあった。だが、それだけで今の浦和の攻撃を凌ぐのは難しく、ヴァンフォーレ甲府は4失点、ベガルタ仙台は7失点、コンサドーレ札幌も3失点を喫している。なにせ浦和は今シーズン、ACLも含めて公式戦で無得点に終わったゲームが一度もないのだ。
そこで、大宮が用意したさらなる策が攻撃の一手だった。
ザスパクサツ群馬からの新加入で、スピードのある瀬川祐輔を2トップの一角として起用し、カウンターの急先鋒役を託した。だが、狙いはそれだけではなかった。
「僕は一瞬のスピードがあるので、味方と目が合った瞬間に裏に飛び出して、(江坂)任くんが間で受けるということを意識していました」と瀬川が振り返る。
瀬川がディフェンスラインを押し下げ、バイタルエリアに生まれるスペースで江坂がボールを受ける――。今やエースとなった江坂がマークから逃れるためのメカニズムの構築にも、余念がなかったのだ。
試合の途中から、大宮には余裕と自信が感じられた。
待望のゴールが生まれたのは63分。興梠のフリックパスをカットすると、こぼれ球を拾った江坂のパスから、茨田が右足で渾身のシュートを突き刺した。
その後は、ハーフタイムに柏木陽介を負傷で失ったうえに、先制されて焦りが見える浦和の強引な拙攻を、身体を張って跳ね返していく。
後半に入って俄然、大宮の選手たちに余裕と自信が生まれたように見えたが、実際にはもっと早く「やれる」との手応えをつかんでいたようだ。殊勲の茨田が笑みをこぼしながら語る。
「祐輔がチャンスを作ったシーンで、チームとして『行けるかも』っていう雰囲気になった。守備もある程度ハマっていたし、チャンスを一回作れたことで、前向きに取り組めたと思います」
瀬川がGK西川周作と1対1を迎えた22分のシーンが、チームに勇気を与えていたのだ。