Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和を陥れた最下位・大宮の超対策。
布陣を変え、キャプテンを変え……。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/05/02 17:30
金澤慎(左)と瀬川祐輔。さいたまダービー勝利の立役者たちは、圧倒的戦力差を覆しての勝利を喜び合った。
監督の進退がかかった試合で、主将を金澤に。
もうひとつ、渋谷監督が用意した策に触れないわけにはいかない。
今シーズンのチームキャプテンは菊地光将で、副キャプテンは江坂、横谷繁、渡部大輔の3人が務めている。菊地を負傷で欠くため、前節のガンバ大阪戦では渡部がキャプテンマークを巻いたが、監督の進退も懸かったゲームで、さいたまダービーという大一番で、渋谷監督はキャプテンマークをあえて金澤慎に託した。
「大輔をプレーに専念させるために、今日は慎に。彼もずっと大宮を背負ってきている選手なので。彼が発信することによって、いろいろなことが変わるかな、と思って」
'99年に大宮ユースの一期生として大宮に加入した金澤は、期限付きで移籍した'06、'07年を除き、オレンジのユニホームをまとってきた。そんな金澤からかつて、こんな話を聞いたことがある。
「自分は本当に、大宮アルディージャがなければ、プロのサッカー選手になれていなかったので……」
さいたまダービーを何度も経験した男の力。
金澤には中学3年のとき、ジェフ市原(現千葉)のセレクションを受けたものの、落選した過去があった。
「たぶん他のアカデミーも入れなかったと思うんですよ。でも、ちょうど大宮ユースができる時期で、『うちのセレクションを受けませんか』と誘っていただいて、そこからプロへの道がひらけていったんです」
そのとき、金澤に声をかけたのが、ユース監督だった佐久間悟氏(現甲府副社長兼GM)と、コーチだった渋谷監督だったという。
その後、トップに昇格した金澤は、2連敗中ながら3-0と完勝して残留への足がかりとした'09年の30節や、17位ながら3位の浦和と1-1で引き分け、その後、無敗でシーズンを駆け抜けた'12年の24節を含め、さいたまダービーを何度も経験してきた。
ダービーの重みを胸に、チームのために最後まで走り抜く――。この日の金澤の働きを見れば、渋谷監督が変えてほしかったことが、浮かび上がってくる。
臆せず戦えば首位にも勝てる。そんな自信と確信をチーム全体で共有できれば、大宮はこの先、浮上していけるだろう。シーズンはまだ、始まったばかりだ。