炎の一筆入魂BACK NUMBER
過去を捨てて甦った広島・今村猛。
「昔の球」よりも、今投げられる球を。
posted2017/03/30 11:30
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
日本中が沸いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、幕を閉じた。優勝した米国に準決勝で敗れた日本は、2大会連続でベスト4に終わった。4年前、日の丸を背負って米国の地に、21歳だった広島・今村猛はいた。
今大会の日本代表について聞くと、意外な答えが返ってきた。
「WBCですか? 見ていませんでした」
サラリとした口ぶりは嘘でも強がりでもない。自身の話を聞いても、のれんに腕押し。
「僕は、何もしていませんから」
前大会では第1ラウンドと第2ラウンドにそれぞれ1イニング登板したのみ。米国でマウンドに上がることはなかった。世界と戦うのではなく、自分と戦っていたのかもしれない。
今村にとって本当の戦いは、WBCが終わってからだった。
中継ぎでフル回転した負担は肉体に現れる。
大会前年に行われた強化試合で結果を残したことで、今村は第3回WBC日本代表に選出された。成績でも納得のものを残していた。'12年は69試合に登板して、防御率1.89をマークした。だが、世界で輝けなかった。
前シーズン終了後の秋季キャンプから投げ込み、例年よりも早い調整によって蓄積された疲労が取れなかったこともある。毎年異なる肉体的な変化に対応しきれなかったことも影響していた。
登板過多による負担は必ずどこかに出る。
十分なケアをしていても、影響はどこかに出るだろう。身を粉にして投げる献身性が自分の体をむしばむ。中継ぎという酷な役割では、そういった変化にも対応しなければ出番を失う。
そうやって活躍の場を失っていった中継ぎ投手は少なくない。