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名手・宮本慎也だからわかる、
名手・菊池涼介の“ミス”の凄み。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNanae Suzuki
posted2017/03/30 11:20
メジャーの慣れない芝に対しても、菊池は「楽しむことを忘れないでプレーしたいですね」と前向きに発言していた。
「守備の名手」しか立てない、特別な場所。
守備範囲を広げる代わりにボテボテの内野安打、そしてイレギュラーのリスクと向き合わなければならない。
名手にしか立てない場所なのだ。
「自分にも経験があるけど、アンツーカーと芝の境目がはっきりしている球場ではイレギュラーが怖くて、後ろで守りたくても守れないことがある。
本人に話を聞いたことはないけど、菊池はイレギュラーにも対応できる自信があるのではないかな。あのエラーは責められないし、今まで菊池の守備に助けられて準決勝まで来た。彼の守備力がなければ、落としていた試合もあったかもしれない」
ゴールデン・グラブ賞10度、ヤクルト、そして歴代の代表チームを堅守で支えた宮本氏は次世代の名手・菊池の心中をこう察した。
つまり慣れない球場、悪天候という条件にあってもあえてそこに立つ勇気によって、あのミスは生まれてしまったのだ。
「右肩を前に出し、自分の左側に落とせば……」
菊池はその後、2番打者として同点ホームランを叩き込んだが、もし、それがなかったとしても誰も責める人間はいなかっただろう。
ただ1つ、同じ日の丸を背負った者として宮本氏が菊池に望むことがあるという。
「欲を言えばなんだけど、どこかで保険をかけて守るということ。あの場面だったら体の右側にグラブがあったから、右側に弾いて二塁まで進まれた。『まずい』と思った瞬間に右肩を前に出して、自分の左側(一塁側)に落とせば、ランナーを一塁で止められたかもしれない」