プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「全員が納得することはありえない」
小久保采配は、勝利だけのために。
posted2017/03/16 12:05
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
「行き当たりばったりですよ」
米国行きを決めたイスラエル戦後の東京ドーム。投手陣を預かる権藤博投手コーチは淡々とした表情でこう語った。
決勝ラウンド進出をかけた最後の戦い。序盤から両チームの先発が一歩も引かない投手戦の主役は、千賀滉大(ソフトバンク)だった。
その日の先発を言われたのは、3日前に延長11回のタイブレークでオランダを破った試合の直後だった。
この試合で中継ぎ登板して2回を無失点で切り抜けると、権藤コーチから先発を通告された。
千賀は思わず「嫌です!」と答えたという。
冗談と本音が入り混じった言葉だった。
「ゼロで抑えられたのが一番! いい投球ができました」
2月23日に始まった代表合宿から、侍ジャパンでは先発としての調整は全く行ってきていなかった。心の準備もできていない。
だから逆に無心でこの日のマウンドに上がれた。
「余計なことを考えてもよくない方向にいくので、ゼロに抑えることだけを考えました。ゼロで抑えられたのが一番! いい投球ができました」
最後は左足のふくらはぎがつってしまい自ら降板を申し出た。それでも5回を1安打無失点で切り抜け十二分に期待に応えた。今大会の日本代表で先発投手が5回を投げたのも、無失点でマウンドを降りたのも、この千賀が初めてだった。
実は「行き当たりばったり」は千賀の先発起用だけではない。
大会直前の強化試合で2勝3敗と逆風の中で始まった本大会では、投手起用に疑問の声が流れていた。