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イグアインが去っても得点は減らず。
ナポリの控えから覚醒した29歳の男。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2017/02/25 08:00

イグアインが去っても得点は減らず。ナポリの控えから覚醒した29歳の男。<Number Web> photograph by AFLO

2016年のベルギー年間最優秀選手にも輝いたドリエス・メルテンス。小柄な29歳の突然の進撃が、周囲を驚かせている。

「孫の代まで裕福になれる」中国移籍も考えたが。

 この冬、メルテンスは欧州中の移籍市場で猛威を振るった中国のクラブから破格のオファーを受けた。

 2月になって、母国ベルギーのメディアに明かしたところによれば「あるクラブからとんでもない額を提示された。子供はおろか、孫の代まで裕福な暮らしを保証してくれる額だった」という。

 先だって、ゼニトにいた同胞MFビツェルが年初に、カンナバーロ率いる天津との4年半契約にサインしていた。彼には年俸1800万ユーロという異常な高待遇が、アジアの大陸で待っている。

中国に移籍する理由は「金以外にないよ」。

 メルテンスは人づてにビツェルのケースを調べ、妻と中国移籍のメリットとデメリットを話し合った。

 額が額だけに自分だけの問題とはいえず、夫として、家族の長として、一晩眠れずに考えた。

 そして、首を横に振った。

「中国に移籍した選手たちは決まって『新たな人生の経験を積むために』とかキレイ事を並べるけど、そんなものは大嘘だ。金以外の理由などないよ」

 メルテンスは銀行口座とサッカーを天秤にかけ、後者をとった。

 レアルとのカードは欧州中が注目する決戦だ。熾烈なレースが続くセリエAの得点王争いも制することができれば、ベルギーサッカー史上初の快挙になる。サッカー選手として、ようやくつかんだチャンスを逃せるはずがない。

 ベンチからエースに這い上がった小さな彼にとって、今、最も大事なのはトップエンドのレベルで戦う真剣勝負の舞台だった。

 R・マドリー監督ジダンが、2002年のCL決勝戦で伝説のボレーを叩き込んだとき、メルテンスはブリュッセルにあるアンデルレヒトの育成部門でプロになることを夢見る15歳の少年に過ぎなかった。

 指揮官サッリは、トスカーナの片隅にある人口8000人の村のアマチームを指導していた。もし彼が経済的成功を人生で優先させていたら、前職である銀行勤めを今も続けていただろう。

【次ページ】 忠臣というよりも、雰囲気は傭兵。

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