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「リハビリ中、たくさん泣いたんだ」
内田篤人が明かす苦闘の1年9カ月。
posted2017/02/10 08:00
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph by
Itaru Chiba
右膝の激痛に耐えながら、ひたすらリハビリを続ける日々の中、
いかにして心を奮い立たせ、希望の光を見出してきたのか。
約1年9カ月にもわたる、内田篤人の闘いの軌跡を追った。
2016年12月6日。練習の準備をしている内田篤人に、シャルケの用具係が声をかけた。
「自分のすね当てって持ってる?」
普段なら聞かれないことを聞かれ、すぐにピンときた。試合用のすね当てが必要になったのは次戦の遠征メンバーに自分が入ったからだろう、と。しかし、本来は用具係が保管しているはずではないのだろうか。
「たぶん、俺のすね当て捨てたんだろうね。彼らはすぐ人のもの捨てるからなあ……」
内田は冗談半分にそう苦笑した。だが、'14-'15シーズン後半から約1シーズン半にわたって試合出場がなかったのだから、用具係を責めるのも気の毒というものだろう。
その日の練習では主力組に入り、軽快な動きを見せていた。練習の終盤、日も暮れかけて寒さが増してきた頃、内田はバインツィアル監督に呼ばれた。
「明後日はザルツブルクに行くぞ!」
「『膝どうなの?』と聞かれただけで涙が……」
すね当てのやり取りから、高い確率でメンバー入りするだろうと思ってはいたが、それが確実となる指揮官からの一言。ピッチ外から見ていても、表情がほころぶのが分かった。だがその一方で、内田は冷静にこう確認した。
「何分くらい?」
「20分から30分と考えている」
なかなか悪くない答えが返ってきた。
練習後に話を聞くと、内田は早くも試合出場に思いを馳せていた。
「実際、試合に出たら俺、泣いちゃうかもなあ。リハビリ中もたくさん泣いてきたんだよね。友達とご飯食べてる最中に『で、膝どうなの?』って聞かれただけで、勝手に涙が流れるくらいだったから。『どうした? どうした?』って心配されたりして」