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「リハビリ中、たくさん泣いたんだ」
内田篤人が明かす苦闘の1年9カ月。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byItaru Chiba
posted2017/02/10 08:00
12月8日、ELザルツブルク戦の後半から途中出場。639日ぶりにピッチを駆け回った。リハビリが続く右脚は黒い特殊なタイツで覆われている。
新監督、両SDも内田のプレーを直接知らない状況。
内田がいよいよ試合出場を口にし始めたのは、11月の上旬だった。
「本当は今週、メンバー入りを狙ってたんだけどね」
と、毎週のように繰り返した。90分間フル出場できるほどの回復はしていないが、少しの時間であればピッチに立てる状態にまでは戻った。だが、チャンスはなかなか訪れない。
「俺、構想に入っていないんだと思う」
そう、少々悲観的に話す時期もあった。
今季のシャルケは体制が一新されており、バインツィアル新監督だけでなく、シュスター、ハイデルの両スポーツディレクターも、内田のプレーを直接は知らない。順位争いの厳しいブンデスリーガで、いきなりの起用には二の足を踏んでいるのだ。それでも12月8日、ヨーロッパリーグのザルツブルク戦での復帰は既定路線であった。1次リーグの首位突破を決めており、内田にとってはうってつけの復帰の場だった。
まるでホームにいるように鳴り響いた“ウッシー”。
試合当日、懸案のすね当ては内田自身がストックを持っていたため事なきを得た。ただ、今季初のメンバー入りとあって、移動用のスーツを持ちあわせていなかった。一人だけジャージで移動するわけにもいかず、この試合には同行しないエースMF、マックス・マイヤーに借りた。
スタジアム入りし、ロッカールームに背番号22 のユニフォームが準備されているのを見たときは、さすがに胸に迫るものがあったという。試合は予定どおりベンチスタート。後半に入るとウォーミングアップをしながら、ベンチと戦況を交互に窺った。
「俺が出る20分前くらいに急にサッカーが良くなってたから、俺が監督なら交代しないかなって」
やがてベンチからの声がかかると、まるでシャルケのホーム、フェルティンス・アレナにいるかのような“ウッシー”コールが鳴り響く。83分、ピッチに一礼すると時間を惜しむように飛び出し、スローインを勢いよく放ってプレーが始まった。88分には南野拓実のシュートをブロックしたが、後半ロスタイムにカウンターから追加点を許し、0-2で敗戦。約10分間の出場に涙はなく、喜びでも安堵でもない、むしろ苛立ちが混ざっていた。
「連れてきてくれて、10分でも使ってくれて監督には感謝している」としながらも、「ウォーミングアップしすぎて疲れちゃった。もうちょっとマシな形で出たかったな」。復帰したから満足、ではない。一人のプレーヤーとしての当然の欲求がそこにはあった。