マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球が人工芝でドームだったら。
再燃した人気の理由を改めて考える。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/01/25 07:00
もはや高校野球の象徴になりつつある清宮幸太郎。秋の東京大会で優勝して、センバツにも出場が確実視されている。
もう1つ、どうしても挙げたい高校野球人気の理由。
私には、そこにもう1つ、どうしても挙げたい高校野球の人気の理由がある。
“土”、そして“空”である。
日本のプロ野球も人工芝と、ドームの球場がとても増えた。
イレギュラーのないグラウンドで、照明に照らされながら行われる野球がプロ野球なら、スパイクの足跡ひとつでゴロがどう跳ねるかわからない土のグラウンドで、陽にさらされながら、時には雨に打たれながら白球を追うのが高校野球。同じ野球という競技でも、そんな区別ができそうだ。
高校野球は、そんな不確定要素がドラマを作る。そのドラマがファンの胸をせつなく締めつける。
土に汚れたユニフォーム姿も美しい。
負けたらおしまい……の冷酷なオキテの中で、泥にまみれたユニフォームほどぴったり似合うコスチュームはない。
私は、グラウンドに高校野球を見に行くだけじゃない。“土”を見に行く。とりわけ、甲子園の内野の土の色は美しい。日本の大地の土の色をしている。
グラウンド整備のプロフェッショナルたちが丁寧に丹精こめてならし、濃淡のむらがどこにもないように水がまかれた試合前の内野グラウンドの“土”の美しさといったらない。予選が行われる各地の市営球場、県営球場だって、思わずため息の出るような大地の色に目が覚める思いだ。
「今年の甲子園もええ土の色やなぁ」
誰もそんなことを口に出す人はいないだろうと思っていた。そうしたら、昨年の夏の甲子園のことだ。
記者席のあるネット裏中段まで階段を上ってきた中年の男性が、私たちのすぐ近くでグラウンドを振り返って、
「おお、今年の甲子園もええ土の色やなぁ……」
思わず感嘆したそのすぐ後ろで、
「お父さん、そんなことより席やで、席、はよ探さんと!」