マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
阪神8位・藤谷洸介は田中正義級!?
ギータを抑えた角度と球威は本物。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/12/07 07:00
サイズ感がある投手がマウンドに立つだけでも、打者にとっては脅威となる。藤谷は甲子園の地でそのアドバンテージを生かせるか。
「高校の頃は70キロちょっとしかなくてねぇ」
「高校の頃は70キロちょっとしかなくてねぇ。あれを鍛えて、食わせて、90キロぐらいになったら、正義と池田(隆英・楽天2位指名)と3人で投手陣の3本柱作ってさ、全国狙えるって夢見たこともあったんだけどねぇ」
赤銅色に焼けた精悍なマスクをちょっと悲しそうにさせながら、岸監督が話してくれたことを思い出していた。
いつかはつかまるんじゃないか。なんたって全国初登板の先発投手だ。
いいや、とんでもない。
それどころか、尻上がりにイニングを重ねるごとに腕の振りの勢いが増して速球とチェンジアップの緩急が冴え、終わってみれば6安打の完封勝利だから、そこでまたまた驚いた。
今の勢いを信じ、大切にするのも1つのあり方。
藤谷のことを、今ごろまで書かなかったのは理由がある。
果たして今年、プロ入りするのか? そんなかすかな疑問があったからだ。
もう1年、パナソニックの投手陣の柱として、春のスポニチ大会から正念場の都市対抗、そこまで奮投を重ねていったら、来秋のドラフトなら上位は確実だろう。ならば、引き止める人も現れようし、本人にも気持ちの揺れが生じるのではないか。
11月下旬、パナソニック・藤谷洸介は阪神と仮契約を交わした。
本人、きっと“勝算あり”なのだろう。
ドラフトで大きくなり、そしてドラフト指名投手として奮戦した全国でさらにもうひと回り大きくなってプロに挑む藤谷洸介。
今の勢いを信じ、大切にするのも、プロへ進む者の1つのあり方なのかもしれない。
ドラフトは人も作るのだ。