プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ジェラード引退、次の夢は監督業。
リバプール帰還への修業期間を。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2016/12/04 11:00
数々のスーパーミドルでアンフィールドを沸かせたジェラード。MLSでは下部組織の指導を兼任するなど、帝王学を着々と学んでいる。
名将ダルグリッシュと肩を並べる可能性は、ある!
だが、名選手が名監督になるとは限らない。リバプールには、FWとしても監督としても伝説を残したケニー・ダルグリッシュという前例があるが、ジェラードをも凌ぐステータスを持つ「キング・ケニー」は、これまでの指揮官の中で“例外”と考えた方が良いだろう。
ジェラードと同じ元キャプテンで、黄金期の'80年代前半にチームの中軸だったグレアム・スーネスは'90年代初頭に指揮を執ったものの、リバプールファンがしびれを切らす中で辞任を余儀なくされた。クラブは違うがニューカッスルのエースだったアラン・シアラーも、古巣の窮地を救うべく指揮を執ってはみたが降格を避けられず、最初で最後の監督経験となった感がある。
とはいうものの、かくいう筆者もジェラードはダルグリッシュに続く“例外”になれるのではないかと思っている。まず、選手の尊敬を集めることは請け合いだ。
ジェラードはイングランド人だけではなく、フェルナンド・トーレスやルイス・スアレスといったワールドクラスにも「一緒にプレーした選手で過去最高」と言われた実力の持ち主。また好敵手のアーセナルを率いるアーセン・ベンゲルをして、「全てを兼ね備えた夢のようなMF」と言わしめた。
しかも、ヘディングゴールで反撃の狼煙を上げた「イスタンブールの奇跡」こと2005年CL決勝や、2度の同点ゴールで「ジェラード・ファイナル」と呼ばれる2006年FAカップ決勝など、幾度もチームを救って勝利へと導いた。英雄としてのオーラは、現役を退いたからといって消えてしまうようなものではない。
10代半ばの頃、オーウェンとほぼ一緒の小柄さだった。
かといって、いわゆる天才肌の選手ではなかったことから、選手の苦しみを理解できる指揮官になるだろう。ジェラードは、ユース出身者としては遅咲きと言ってもよい部類。本格的に能力を発揮し始めたのは、急激に背が伸びた後の20歳前後になってからだった。
今から14年ほど前にリバプールのアカデミーを通訳として訪れた際、小柄なマイケル・オーウェンと身長が大して変わらない10代半ばのジェラードの写真を見て驚いたことを覚えている。1軍定着を果たした後も、警告の多さに悩み、「タフ」よりも「ラフ」に近かったタックルの自己制御を学ばなければならなかった。