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ジョンソンが95球で降板した遠因。
中島卓也、5連続ファウルの幻影。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2016/10/31 14:30

ジョンソンが95球で降板した遠因。中島卓也、5連続ファウルの幻影。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

シーズンを通じてホームランは0本、打率も2割5分に届かない。それでも中島卓也は「イヤな打者」なのだ。

中島は粘ると同時に、早いカウントでも狙っている。

 これはジョンソンだけではない。広島の各投手に中島の粘り、しつこさが強烈に印象付けられたのがこの第1戦だった。特に先発投手は打席に中島を迎えると、球数を投げさせられるのではないかとプレッシャーを受ける。

 しかも3戦から5戦が行われた日本ハムの本拠地・札幌ドームでは、スタンドのファンも中島を知っている。追い込まれると、逆にファウルの期待にファンがざわめく。期待通りに中島がファウルを放つと、ファンがドッとわく。それが次も粘られるのではないかというプレッシャーになり投手を疲弊させていくのである。

 そして中島の価値が高いのは、こうして粘るだけではなく、粘ることで相手が早めの勝負を仕掛けてくれば、それを狙ってきちんと叩けることなのだ。

 第5戦ではジョンソンが交代した7回1死二塁の第3打席で、今村猛の2球目を打って三遊間を破って岡大海の同点犠飛を引き出すと、西川のサヨナラ満塁弾の飛び出した9回も中﨑翔太の3球目を打って投手内野安打で繋いだ。

 日本一を決めた第6戦でも1回の無死三塁ではストレートの四球で歩くと、3回にはフルカウントからファウルで粘った末に三塁内野安打。第3打席ではフルカウントからファウルで粘り、第4打席もフルカウントからの7球目を選んで四球での出塁。勝負の決まった8回も2死一塁で4球目を打って中前安打で中田の押し出し、レアードの満塁弾へと繋げた。

9番打者に全力投球を強いられることのキツさ。

 実はこの第5戦で、中島はジョンソンに対して打席で粘ったわけではない。

 先頭で打席に入った3回はカウント1-1から内角へのツーシームを打って遊ゴロ。5回1死二塁で迎えた第2打席は逆に初球打ちで遊ゴロに倒れた。ただ、中島を打席に迎えたジョンソンの頭には、必ず第1戦の12球の残像が残っていたはずである。

 9番打者にも神経を使わせ、早いカウントから追い込むために全力投球を強いる。そういうボディーブローがジョンソンを疲れさせていく。それが95球での降板というこの試合、今年の日本シリーズの分岐点を引き出したのである。

「1人、1人が自分のプレーを全力でやってくれた結果だと思う」

 日本一を支えたチーム力を栗山監督はこう語って胸を張った。

 中島だけではない。こういう1本のファウル、1つの役割を認識した意思のあるプレーで日本ハムは頂点に上り詰めたのである。

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