マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
秋にのんびりしてる選手は“消す”。
ドラフト目前、今見たい選手たち。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/09/06 11:00
京都翔英の石原は、高校通算42本塁打。身長は169cmだが、体重は90kgに迫る。その長打力は本物だ。
ボール3つ分の落差のフォークが、さらに沈む。
試合前の遠投を見ていて、今日はいいかも……の予感がよぎった。
力を入れて腕を振っていない。体幹に腕が振られている。そんな印象の自然な腕の振りで、100m向こうから飛んでくるボールがなかなか落ちてこない。
ブルペンでもそのままのメカニズムだった。
左足が1歩しっかりと踏み込まれ、連動して上半身が回転すると、それにつられて一瞬遅れるようにビュンと腕が振られる。
この連動がいい。打者のタイミングを難しくする。来た! と思った瞬間、2つも3つもボールに入られて、バットが出遅れる。このズレを作れる。
そして、その通りのマウンドだった。
間違いなく140キロ前半は出ている速球にぐっと入られて差し込まれると、打者はくやしいから、次は差し込まれまいと上体が突っ込む。そこへスライダー、フォークのタテの変化だ。
いつもはボール3つ分ほどの落差のフォークが、今日はもう1つ分ぐらい余計に沈む。握りを見せてもらったら、結構“赤道”あたりで挟んでいる。
これだけ動けば、このフォークは使える。初球に使ってストライクがとれるし、ファールを打たせて追い込めて、勝負球としてゾーンの中にもショートバウンドにも使って、つまり“操れる”からだ。
私がスカウトなら、谷岡は“当確”。
この日の気温は、マウンド上で40度近かったのでは。かげろうの立ちそうなムンムンの炎天下で、それを気にとめるような態度も表情も見せず、走者を許すとギアを上げて僅少差の9イニングを投げきった。
高校野球を終えて3年目なら、“暑さ適性”はまだ高校生の感覚なのかもしれない。むしろ尻上がりに、ボールも腕の振りも勢いを増して、試合後半は危なげない投げっぷりだった。
エースとしても、ドラフト候補としても、間違いなくポイントを2つも3つも上げる快投、いや大奮投に見えた。
球質も内容もよかったが、体重移動と上体の回転という段取りをしっかり踏めば、腕は勝手に振られるものだ。この感覚をつかみ始めているのがさらによい。
もし私がスカウトなら、「東芝・谷岡竜平」の名前の上に、“当確”のバラの花を飾ることだろう。