マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園を“日常感”で戦った大曲工。
日頃の練習を出し切った満面の笑顔。
posted2016/08/17 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
花咲徳栄(埼玉)が6-1で大曲工業(秋田)を破った初戦。
春のセンバツにも出場し、この大会で“ビッグ3”と評される剛腕の1人・高橋昂也投手を擁して、優勝候補に挙げる人もいるほどの強豪校が、秋田の普通の公立校を破った話には、おそらく誰も驚かないだろう。
しかし、現場でその9イニングに立ち会った者として、不思議なほど、大曲工業に“敗北感”を抱かなかった。
5点差のついた試合でも、両チームが放ったヒットの数は同じ10本ずつ。それも理由の1つなのだろうが、それ以上に、大曲工業の戦いぶりに、いつものグラウンドで練習試合でもしているような“日常感”があったからだ。
「甲子園」という場所は、高校球児にとって、間違いなく特別な場所である。
よく使われる“聖地”という表現は好きじゃないが、甲子園で試合をするということは、間違いなく特別な場所で、特別なことをすることだ。
なのに、まず大曲工業の先発・藤井黎来(2年・181cm82kg・右投右打)の表情に、特別なことに臨む時の、妙なこわばりが見られない。
表情にも態度にも出さず、ひたすら低く。
いかにも、米食って育ったんだなぁ……と思わせるふっくらとしたユニフォーム姿に、まん丸顔の童顔。
初回の立ちあがりで、いきなり四球を与えても、ちょっと困ったような笑顔を浮かべただけで、大きなカーブを交えながら、時に140キロを超える重そうな速球を黙々と投げ込み続ける。
左中間を割られ先制の1点を奪われても、その様子はいっこうに変わらない。
東北人だなぁ……と思う。
少々のことがあっても、気にしているのかいないのか、表情にも態度にも出さずに、さっきまでと同じように、カーブと、抜いた感じの変化はチェンジアップだろうか、速球に交えながら、ひたすら低く、低く。
そんなことを続けていたら、三振2つ奪って、初回を1点で切り抜けていた。