野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
虎の主将、ついにスタメンを外れる。
金本監督の胸中と、意地を見せた鳥谷。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/07/28 07:00
今季は守備の名手らしくない、守備での失策数も目立っていた鳥谷。チーム内での信頼も厚いだけに、早々のスタメン復帰が待たれる。
「これ以上、トリをさらし者にはできない」
午後5時半過ぎにウグイス嬢が球場内のアナウンスでスタメンを読み上げる。
「8番ショート大和」
その瞬間、ファンはどよめいた。
'12年から続けていた記録だ。あと11試合で、歴代3位の衣笠祥雄(広島)に並んでいた。苦渋の決断だった金本監督は「鳥谷自身のためとチームのため。その両方」と説明する。かつてチームメートとして'05年の優勝を味わった間柄だ。スタメン落ちには指揮官の特別な思いが込められた。
鳥谷外しで粘り勝った後は報道陣の問いに答えていく。
「これまでに2、3回話をしたのかな。メンタル的なこともあったし、調子そのものも、外れることが、本人のためにもね。これ以上、トリをさらし者みたいにするわけにいかない」
そして、こう言葉を継ぐ。
「まだ彼は若い。35歳。ベテランじゃないから。中堅だから。体も若いし」
金本監督自身も現役時に1492試合連続フルイニング出場を達成した。年齢にあらがい続けた男ならではのエールだろう。「高齢選手=ベテラン」の先入観を持たない。常識に縛られない男の生きざまがにじみ出ていた。
44歳まで体を張った鉄人に年齢は関係ない。
指揮官の年齢観を表すエピソードがある。
現役を退き、評論家1年目だった'13年初秋のことだ。ニ軍でくすぶっていた台湾出身の林威助(現・中信兄弟)に声を掛けた。
「リンちゃん、いま、何歳や?」
「34歳になりました」
間髪入れずに、きっぱりと、こう言った。
「俺がタイガースに入った年や。俺は37歳のときに40本塁打、打てた。足も速かったんや。全然、やれるよ。もっともっと練習して頑張りんさい」
人が衰えるのは気力がなえたときだ。年齢にとらわれて自ら限界点を作っていないか。年輪を重ねても意気盛んにプレーする。44歳まで第一線で体を張った鉄人金本の神髄だろう。35歳の鳥谷は今季、打率2割3分台に甘んじ、守備でも機敏さを欠く。野球人生のターニングポイントを迎えた男へのメッセージだった。