野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
虎の主将、ついにスタメンを外れる。
金本監督の胸中と、意地を見せた鳥谷。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/07/28 07:00
今季は守備の名手らしくない、守備での失策数も目立っていた鳥谷。チーム内での信頼も厚いだけに、早々のスタメン復帰が待たれる。
ジレンマを解消し、さらなる「超変革」を。
就任1年目は「超変革」を旗印に戦い、指揮官がチーム改革の先頭に立ってきた。積極的に若手を抜てきし、競争をうながす。結果を出した者を起用するシンプルな用兵を貫いてきた。そのなかでも、不調の鳥谷がフルイニング出場を続ける“矛盾”が生じていた。
球団幹部も「フルイニングがなければ、休ませられるんやけどね。鳥谷を休み休み使った方がパフォーマンスも上向いてくるんじゃないかとも思う」と表情を曇らせた。
その一方で、鳥谷を外した場合の代役ショートに適任者が乏しい現状も浮き彫りになっていた。金本監督が決めた鳥谷のスタメン落ちは、悩ましいジレンマを断ち切る采配だ。いままで以上に柔軟な選手起用が可能になり「超変革」を推し進めていくだろう。
「連続試合出場はできる限り続けてやりたい」
「フルイニングは関係ない。あと6年くらいかかるんだよ、俺の記録まで」とも説明した。
これまでフルイニング出場継続の是非を問う論調もあったが、指揮官の胸中はまるで違う。あくまで鳥谷自身のスランプ打破とチームの勝利に向かう最善策を講じた。
その一方で「フル出場(連続試合出場)はモチベーションのために、できる限り続けてやりたい」とフォロー。1700試合を超える連続出場をアシストしつつ、復調を待つ。「(ベンチで野球を見る)そういう経験がない。いい経験だと思う」とも言った。来季は2000安打も射程圏内に入る。非情なタクトのなかには温情もある。老け込むには早すぎる。指揮官の言葉には、数年先への視線がにじむ。
フルイニング出場を断たれた鳥谷は、1点を逆転した直後の6回2死満塁で代打起用された。
ヘーゲンズの内角直球に押されながらも振り切り、一二塁間に緩いライナーではずむ。二塁菊池は捕るのが精いっぱいだった。タイムリーで加点。いつも通り、顔色ひとつ変えず一塁ベースに立った。通算7582打席目に表れたプロの生きざまだった。
心揺さぶられる、どん詰まりの内野安打だった。