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不慣れなお立ち台と、堂々たるプレー。
FC東京は室屋成の復帰を待っていた。 

text by

飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byJ.LEAGUE PHOTOS

posted2016/07/13 07:00

不慣れなお立ち台と、堂々たるプレー。FC東京は室屋成の復帰を待っていた。<Number Web> photograph by J.LEAGUE PHOTOS

スポーツ推薦で明治大学に入学しながら、休学も退学もせずにプロになった室屋成。彼が成功するかどうかは、モデルケースとしても大きな意味を持つ。

マッチアップの相手に心理戦を仕掛ける室屋らしさ。

 不慣れなお立ち台とは異なり、ピッチの中では「意外に緊張しなかった。落ち着いてできた」と室屋は言う。実際、プレーは及第点が与えられる内容だったと言っていい。

 キックオフ直後、長い距離を走って橋本拳人からのロングフィードを引き出すと、その後もドリブル突破を図ったり、バーンズやムリキにワンタッチパスを正確に届けた。32分にはゴール前まで飛び出し、米本拓司のパスを受けて右足を振り抜く。シュートはゴール右にそれていったが、攻撃への強い意欲が伝わってきた。

 もっとも、攻撃面もさることながら、この日評価したいのは守備面だ。FC東京は前節のサガン鳥栖戦でサイドを攻略されて痛恨の逆転負けを喫したが、甲府戦ではサイドからやられる場面はほとんどなかった。

 なかでも“室屋らしさ”が見て取れたのは、守備におけるファーストプレーとセカンドプレーだ。対峙した福田健介にくさびのパスが入った3分のシーンでは、背後から激しく寄せてキープを許さず、ピッチ中央付近で福田にパスが渡ろうとした9分のシーンでも激しいタックルを見舞ってカットした。ゲーム序盤に厳しくいって相手が嫌がれば、心理的に優位に立てる――。そんな狙いが透けて見えた。

石川直宏の姿が室屋の心の支えになった。

 攻撃面のみならず、守備でも闘える選手だということを改めて証明した室屋だが、骨折した直後はやはり、ショックだったという。

「骨折が判明したときは不安だったし、焦りもありましたね。ケガには強いほうだと思っていたのに、いきなり骨折して、やっぱり最初の頃は落ち込みました」

 大学側の理解もあって、念願だったプロへの道を歩み出した直後に負った大ケガ――。退院してリハビリを始めても気分が乗らず、メンタルを保つのが難しかった。そんなとき希望となったのが、同じく復帰を目指しリハビリに励む石川直宏の存在だった。これまで何度も大ケガを負いながら、そのたびに逞しくなって蘇り、今もまた復帰して戦力となることを目指して弱音を吐かない先輩から学ぶことは多かったという。

「ナオさんの姿を見たり、話を聞いたりして『俺ももっと強くならなあかんな』って」

【次ページ】 森重に、河野に、そして城福監督に支えられ。

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