炎の一筆入魂BACK NUMBER
あの天然キャラが自己プロデュース!?
2000本安打・新井貴浩の魅せる力。
posted2016/04/29 08:10
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
大記録達成を目の前にした選手とは思えなかった。
2016年4月26日、神宮球場。2000安打に王手をかけた新井貴浩は1回の第1打席で凡退。スイングに重圧が感じられた。だが2回、エルドレッド、後輩の鈴木誠也、堂林翔太が3者連続本塁打。ベンチの新井は両手を突き上げ、大きな声を出して、誰よりも喜んだ。
そして迎えた2打席目。内角の難しい球に体をうまく回転させて左翼線へ運んだ。適時二塁打で史上47人目となる2000安打を達成。この時は二塁ベース上で、控えめに喜んでいた。
新井貴浩という選手は不思議な選手だ。プレー1つに、思いが見る者へストレートに伝わってくる。
4番新井とともにエースとして低迷期の広島を支え、昨年8年ぶりにともに復帰した黒田博樹は言う。
「新井のすごいところは、いい意味でプライドを捨てられるところ。結果を残して、実績のある選手がそれを捨てるのは難しい」
言い得て妙だ。
丸「新井さんは見ていて面白いし、個が濃い」
古巣復帰となった昨春キャンプでは、会見の言葉通り、誰よりも「泥にまみれた」。ノックでも人一倍声を出す。名選手と肩を並べる偉大な記録が近づいても、チーム内で距離を取る選手はほとんどいなかった。いや、新井が距離を取られるような振る舞いをしていなかったと言う方が正しいのかもしれない。
「キク(菊池涼介)とか昨年からあと32本とか言っていましたからね。みんな『あと何本』って。普通言わないですよ」
新井は後輩からのいじりに、うれしそうに笑った。
それはすべて、新井が作り出した雰囲気だ。若い選手が多い広島の雰囲気をベテランの新井が変えたと言ってもいい。
新井とともに打線の中軸でチームを引っ張る丸佳浩は言う。
「新井さんは見ていて面白いでしょ。個が濃いですよね。あれだけ突き抜けたものがないと、あの年齢までプレーできないのかもしれない」
強烈なキャラクターが、若いチームに大きな刺激を与えている。