炎の一筆入魂BACK NUMBER
あの天然キャラが自己プロデュース!?
2000本安打・新井貴浩の魅せる力。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/04/29 08:10
ドラフト6位でプロ入りした新井が2000本安打で名球会入り。ドラフト6位以下の選手で、過去に名球会入りしたのは福本豊氏のみである。
ファンに伝わる感情表現は一流選手の条件。
新井を見ていると、どこかで「プロ野球選手、新井貴浩」を演じているのではないかと感じる瞬間がある。
復帰1年目の昨春キャンプ中、居残り特守では肩で息をしながら、ポトリ、ポトリと汗を流した。首脳陣の1人は「しんどそうに見せるのがうまいな」と笑った。
確かに、魅せる選手だ。
フルスイング後、豪快にバットを放り投げる。一塁ゴロを捕球し、自ら一塁ベースを踏むときには大げさに右手を振って投手を制止する。チームメートの活躍に、当事者以上に喜びを爆発させることもある。
目の前の試合、1球1球に全力で自分のすべてを注いでいるプレーは、ときに滑稽なようにも映る。
ただ、それが美しく、人の心を打つ。だからこそ広島ファンのブーイングは、あの大歓声に変わったのだろう。
それは自己プロデュース力と言ってもいい。
一流選手には、その自己プロデュース力に長けた選手が多いように感じる。無理に演じているわけではなく、自然とそうなっていることもあるだろう。最たる選手が、長く全国的な人気を誇る長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督ではないだろうか。
言葉の重みで「男気」を創り出した黒田博樹。
広島にもいる。新井とともに古巣に復帰した黒田がそうだ。
「いつ腕が飛んでもいいと思って投げている」(2015年4月11日の阪神戦で153キロを計測)
「この時期に痛い、かゆいは言っていられない。チームのためになるなら喜んで投げたい」(2015年9月28日のDeNA戦でシーズン3度目の中4日で6年連続の2桁勝利)
米大リーグ球団からの巨額のオファーを蹴っての古巣復帰だけでなく、発する言葉の一言一言から「男気」がにじみ出ている。
本人は自ら1度も「男気」と口にしたことはない。それでも今、世には「黒田=男気」として知れ渡っている。1球の重みだけでなく、一言の重みで創り出した選手像と言えるだろう。