プロレスのじかんBACK NUMBER

今度はベルトが俺を追いかける。
新IWGP王者、内藤哲也の生き方。
 

text by

井上崇宏

井上崇宏Takahiro Inoue

PROFILE

photograph byMasashi Hara

posted2016/04/19 10:30

今度はベルトが俺を追いかける。新IWGP王者、内藤哲也の生き方。<Number Web> photograph by Masashi Hara

オカダに完全勝利し、会場全体を興奮の坩堝と化した内藤。新日での存在感は急檄に増大している。

すべてを捨てた時――内藤の見る景色が一変した。

 内藤が日本に帰国する前に固く誓ったことがある。

「この続きを新日本でやるんだ。観客じゃない、まずは自分のことを第一に考えてやるのがプロレスのリングなんだ。俺はそれを実行する」

 ファンのために、立ち位置を守ることもやめた。

 ファンのために、これ以上やっちゃいけない。そんな制限を取っ払った。自分の思ったようにやる。

 ファンのために、それ以上言っちゃいけない。そんな制限は最初からなかったのかもしれない。自分の思ったことを言う。

 すると景色が一変した。そんなファンのことを一切考えない内藤のスタイルが、ファンから絶大な支持を集めたのだ。ブーイングは大歓声へと変わった。内藤は完全に新日本の主役に躍り出た。

 4月10日、超満員札止めとなった両国国技館で、内藤はついにオカダ・カズチカを破り、IWGPヘビー級王座を手にした。

中邑の理論を越える、内藤のプロレス愛。

 IWGPのベルトを初めて手にして、じっとベルトを見つめた。ほんの数秒間だったが頭の中でいろんな思いが駆け巡った。そして、なんとそのベルトを放り投げた。

「あのとき、ベルトを手にして思ったことは、中3のときからこのベルトを目指して19年ぐらい。本当にずっとこのベルトを目指してやってきたけど、今の俺はこのベルトを超える存在になってしまったな、と。今、新日本のリングでIWGPのベルトに絡むことと、内藤哲也に絡むことのどっちがオイシイことになっているか? 答えは明白でしょ。これまでは俺が追いかけていたけど、今度は逆におまえ(ベルト)が俺を追いかけてこい。そう思ったら次の瞬間、俺はベルトを放り投げていたんです」

 新日本を退団してアメリカWWEへと移籍し、4月頭に鮮烈なデビューを果たしたばかりの中邑にも思うところがある。

「かつて中邑が俺に対して言っていたことというのは、間違いではないけど、その中邑のアイデアで俺はこの位置にまで登りつめたわけじゃない。やっぱりプロレスファンすぎたからこそ今の俺があるんだ。俺は自分の信じる道でここまでやってきた。内藤哲也のプロレス愛はあなたの理論を超えてみせたぜ中邑さん、と」

 バックステージへと引き揚げ、多くの報道陣の待つインタビュースペースでコメントを出していると、慌ててスタッフが駆け寄ってきて、内藤がリングに放り投げてきたIWGPのベルトを目の前に置いた。

「早くもコイツは俺を追いかけてきたか」

 内藤は思わずクスッと笑ってしまったのだった――。

BACK 1 2 3 4 5 6
内藤哲也
オカダ・カズチカ
中邑真輔
アニマル浜口
新日本プロレス
武藤敬司

プロレスの前後の記事

ページトップ