プロレスのじかんBACK NUMBER
今度はベルトが俺を追いかける。
新IWGP王者、内藤哲也の生き方。
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byMasashi Hara
posted2016/04/19 10:30
オカダに完全勝利し、会場全体を興奮の坩堝と化した内藤。新日での存在感は急檄に増大している。
あっという間に大変身し、IWGPベルトも奪ったオカダ。
岡田に対し、そんな強い悪感情を抱きながらも、内藤はそれを態度に出すことはしなかった。
むしろ合宿所で同じ部屋になったこともあり、そこから岡田がとてつもない努力をしている姿を近くで見ることができたし、好青年だったから、プライベートではどんどん仲良くなっていく。ただ、会社が岡田の素材をとても買っていることはなんとなく気づいていたので、レスラーとしては常に敵視し続けていた。
「コイツとはいろんな意味で、絶対にこれからずっと競っていくんだろうな。絶対に負けない」という思いも抱いていた。
2011年12月、2度目のアメリカTNAへの武者修行から、岡田は大変身を遂げて帰国してきた。髪を金髪にし、すっかり逞しくなった肉体を誇示しながら「これから新日本に金の雨を降らせる」と自らを“レインメーカー”オカダ・カズチカと称した。
「コイツは絶対に新日本じゃないよ」
その“新日本じゃないコイツ”は帰国からわずか1カ月半足らずで、棚橋弘至が保持していたIWGPヘビーにいきなり初挑戦してベルトを奪取。あっという間に新日本の頂点に登りつめた――。
中邑「内藤はプロレスファンすぎる」。
「内藤はプロレスファンすぎる。だから内藤の頭の中にはプロレスからインスパイアしたアイデアしかない。もっとほかの世界をあいつは見たほうがいい」
ある日、中邑真輔がトークショーで自分についてこう言っていたと、ニュースを見て知った。
中邑がそんな言葉を口にしたのには理由がある。内藤に最高のプロレスセンスと抜群の身体能力、そして誰にも負けない新日本プロレス愛があるのは誰しもが認めるところ。だが、そんな男のプロレスが、新日本ファンからは受け入れられていなかったのだ。
一言で言うなら、情緒のないプロレス。ある意味、ブレイクする前の武藤敬司と同じだった。
これがプロレスという競技独特の難解な部分なのだが、ファンからのブーイングがこだまする暗くて長いトンネルの中で、内藤はずっと苦しめられることとなる。
「たしかに中邑の言う通り、俺はこれまでの人生、プロレスのことしか見ていなかった。プロレスのことしか考えてこなかった」
内藤はその意見を聞いて、その通りだと思った。