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金本知憲監督もノータッチの新人。
阪神の新人・高山俊は“モノが違う”。 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/03/22 11:00

金本知憲監督もノータッチの新人。阪神の新人・高山俊は“モノが違う”。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

スタメンでの出場が確定しており、3月25日の開幕戦(対中日戦)は京セラドームでのお披露目となる。

長距離重視の「強く振る」打撃を追求する。

 プロ入りを機に、高山自身も一念発起した。パワーヒッターへの変貌だ。昨秋に右手有鉤(ゆうこう)骨を骨折した影響で、2月のキャンプは高知・安芸スタート。右翼に軽々とオーバーフェンスさせる光景に思わず目を疑った人がいた。神宮球場で、東京六大学の明大高山を幾度となくチェックしていた、ある球団のベテラン編成担当だ。

「なんや、こんな打撃、できるんか! 大学のときのフリー打撃は逆方向にも打ち分ける、広角やったのに……。ビックリしたよ」

 この日のお目当ては高山ではない。恒例のキャンプ視察で偶然、高山の姿を見て、声を上ずらせたのだ。ミート重視から強振へ。様変わりしたフリー打撃には、プロでも成長しようとする強い向上心がうかがえる。

「入団の時にも言われましたし、強く振るというのは意識していました。たとえ、そこで打撃が崩れたとしても、直してもらえる環境が整っていますから」

 東京六大学で歴代記録を塗り替える通算131安打の金字塔を打ち立てたが、ドラフト時に、金本監督は「長距離打者として、将来クリーンアップを打てる」と評していた。強く振れる打者になれ──。そんなメッセージを高山にも伝えていた。だからこそ、現状に甘んじない。「狙って打っていた」という安打重視の打撃スタイルから、長打を追い求めるようになった。

オープン戦序盤は間合いが課題だったが……。

 オープン戦は、いまの立ち位置を教えてくれる。

 3月3日のソフトバンク戦では、'15年セーブ王の剛腕デニス・サファテと対戦。154kmの直球に空を切り、最後は低め変化球に当てるのが精いっぱいの二ゴロに倒れた。プロの投手と、いかに間合いを詰めるかが一軍で活躍するための最大のポイントだろう。だから、高山を自由に打たせてきた金本監督も人知れず、この点に関しては助言している。「タイミングですね。差し込まれているので」と高山も振り返る。大学とプロでは、投手とレベルは雲泥の差。球威、球筋、配球などを体にしみ込ませ、しかも対戦する投手は格段に増えて、インプットすべきデータは多い。

 実は、この原稿は少し前に1度、書き上げた予定稿を修正している。そのとき、こんなことを書いていた。

〈いまは投手に崩され、まともにスイングできず、凡退する姿も目立つ。同10日のDeNA戦でも本来の打撃ができず、金本監督も辛口だった。「まだタイミングを取れていない打席もある。投手のモーションに差し込まれ気味にね。1歩、入られている。打者が合わせないとね。打撃投手みたいに『打ってください』で投げているわけじゃない。『打たすまい』と思って投げているわけだから」〉

 この部分を削ろうと思ったのだが、あえて残すことにした。わずか1週間たらずでとてつもない対応を示した成長の跡になると思ったからだ。

【次ページ】 驚異的な対応力で開幕スタメンを奪い取った。

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