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鈴木啓太が語りつくした引退と浦和。
「だけど、寂しさがあるとすれば……」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/02/03 10:50
現役引退会見から1週間あまり。鈴木啓太は実に晴れ晴れとした表情をしていた。
「サッカーが楽しくなりすぎた」
――浦和レッズが強豪チームだからこそ、その戦力にはなれないと判断されたわけですね。
「自分のことを客観視したときに、浦和を離れる時期が来たと自然と考えるようになりました。それでクラブのGMや監督ともそういう話し合いをしました。ミシャ(ペトロビッチ監督)は『まだ浦和でサッカーを続けたいなら、残れるようにクラブと話すよ』と言ってくれましたが、『自分のプレースタイルを考えても、それは違うから、浦和から出ます』と伝えました。技術でカバーできるテクニシャンでもないので(笑)」
――そこから現役引退という決断に至ったのは?
「退団を発表した時点で、獲得のオファーもありました。現役続行か引退か。この2つの選択肢を前にして、いろいろなことを考えた。プロサッカー選手になるという夢を追い続けてきて、ここでやめていいのか? だけどもう、これまで以上のプレーを見せることはできないなというのがひっかかっていましたね。
あと、これは賛否両論があるだろうし、自分のなかでも整理しきれていない部分でもあるんですが、ミシャが来てサッカーが楽しくなりすぎたというのもあるのかな」
――2008年に体調を崩した時に、サッカーをやりたくないという気持ちに苛まれて引退も考えた、と話していたことがありましたよね。その後ペトロビッチ監督が就任して、またサッカーが好きになれたと。
「そうですね。子どもの頃のような気持ちでサッカーができる幸せを感じられたのは事実です。だから、ミシャと出会えたことは非常に大きなことでした。でも、そういう無邪気な楽しさを味わっているなかで、自分にとってサッカーが、プロとしての緊張感のあるピリピリした楽しいものと別物になってきていることも感じたんです」
サポーターの「続けてくれ」が押した背中。
――心臓のこともあるし、とことん追い込んでやれないというもどかしさもあったのでしょうか。
「引退という決断は、『ここで終わり』というようなものだとは思うけれど、そこに至る理由というのは、決してひとつではないし、説明しようにもうまく説明できないものもあるんですよね。
ただ背中を押されたというか、浦和で終わろうと思えたのは、サポーターの声も大きかったと思います。退団を発表したときに『浦和を離れるのはさびしいけれど、どんなユニフォーム姿でもいいから、プレーを続けてほしい』というコメントを本当にたくさんいただきました。それは僕にとっては予想外だったんです。こんなに多くの人たちが『続けてくれ』と思っているんだと知ったとき、逆に『浦和で現役を終えたい』と気持ちが固まったんです。僕はこの人たちに育ててもらったんだからって」