サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
マジックではなく、ロジックの勝利。
リオ行き決めたU-23「弱者の兵法」。
posted2016/01/27 11:30
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Takuya Sugiyama
イラク戦後――。
日本サポーターの前で手倉森誠監督が選手たちに水をかけられてびしょ濡れになった。写真撮影の時、監督は濡れた背広のまま一番前に滑り込んだ。そのパフォーマンスがウケて、選手やサポーターから大きな喝采を浴びた。チームがひとつになっているなぁと感じさせるシーンだった。
リオデジャネイロ五輪、最終予選の準決勝、日本はイラクと対戦。ロスタイムにゴールを奪って2-1で勝ち、6大会連続となる五輪の出場権を獲得した。「ドーハの悲劇」を現場で味わった者としては、23年前の溜飲を下げた劇的な勝利だった。
試合は、FWモハナド・アブドゥラヒーム・カラルにボールを収められ、ずいぶん冷や冷やさせられた。だが、失点する気配がそれほど感じられなかったのは、収められてボールを落とされた後、遠藤航らが次の展開を自由にさせなかったからだ。
相手に流れがある時に、落ち着いて耐えること。
手倉森監督は「割り切りと柔軟性」という意識をチームに浸透させてきたが、それがこの試合でも示された。それを意識したプレーは、イラン戦など過去の試合の中にも度々、見受けられた。相手に流れがある時はムリに流れを取り戻そうとせず、失点しないことだけを考えて耐える。そこに焦りや戸惑いはまったく見えなかった。
遠藤は言う。
「攻められても押されても、しっかりと凌げば必ずチャンスがくるし、点も取れている。今大会ではそういう展開ができているし、選手の中で共通の意識としてあるので焦らずに対応できている。それがチームの強さにもなっているんだと思います」
イラク戦でも押されている中、一瞬のチャンスを掴んで前半25分、目の覚めるようなカウンターから先制した。狙い通りに点が取れていたのだ。一方で前半終了間際にセットプレーから失点して同点に追い付かれたが、ショックを引きずっているようには見えなかった。
「失点した直後は動揺したけど、すぐに取り返そうという気持ちになった」と久保裕也が言うように、日本はポジティブな姿勢を決して失わなかったのである。