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呉昇桓の残留交渉打ち切りに見た
伝統球団・タイガースの矜持。 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byNanae Suzuki

posted2016/01/10 10:30

呉昇桓の残留交渉打ち切りに見た伝統球団・タイガースの矜持。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

呉昇桓は在籍2シーズンで80セーブを記録。新守護神候補のマテオを獲得したが、この大きな穴は埋まるだろうか。

野球協約第180条を遵守せよ。

 おそらく球団は報道の前に召喚の事実をつかんでいた。嶌村聡副本部長をはじめ、残留交渉に関わってきた幹部たちは独自のルートを使って調査を行なっていた。情報を集め、真実に近づき、決断の天秤にかける作業。その中で、あらためて、幹部が立ち返ったのは、球界の憲法である野球協約だったという。

「統一契約書には野球協約の遵守が書かれている。選手はそこにサインしている。それがすべてですよ。野球協約に違反する疑いがあるなら、契約はできない。うちはそういう球団だ。それに、もし(交渉打ち切りの)決断を先延ばしにしていたらどうなるかは、我々が一番よくわかっているよ」

 統一契約書様式には「模範行為」(第17条)として、日本プロフェッショナル野球協約の遵守が明記されている。そして、その野球協約には「賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止」(第180条)が記されている。

 巨人に次ぐ80年の歴史を誇り、全国にファンを抱える老舗球団。球界の顔として、何よりも協約に忠実でなければならなかった。

勝利よりも大事なもの。

 タイガースが呉昇桓との交渉打ち切りを決めたのが12月11日。呉昇桓に処分が下ったのが12月30日。仮に必要戦力だからと、決断を引き延ばしていた場合、処分が下るまでの“灰色の19日間”に何が起こるか。

「賭博容疑」という見出しが連日、紙面に躍ることによってタイガースが何を失うか。球団フロントはしっかりと認識し、覚悟を決めた。

 灰色は黒と同じ。疑わしきは決別。

 呉昇桓に残ってほしいと思っていたのは現場も、フロントも、だれもが同じだった。だが、時として、戦力よりも、勝利よりも、大事なものがある。守らなければならないものがある。

 目前だった絶対的守護神との契約をすっぱりと見切り、未練を残さずに迎えた新年。その決断に、伝統球団の矜持を見た。

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