One story of the fieldBACK NUMBER
呉昇桓の残留交渉打ち切りに見た
伝統球団・タイガースの矜持。
posted2016/01/10 10:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
年明け早々、未練が生じても不思議ではなかった。
大みそかに届いた1本のニュース。昨年11月から海外賭博容疑がかかっていた呉昇桓が単純賭博罪での略式起訴となった。罰金700万ウォン(約73万円)の略式命令という軽い処分に終わり、米大リーグ球団との交渉を再開するという。
一連の騒動によって2年連続セーブ王を手放したタイガースにとって、さぞ複雑なのでは……。そう思っていると、球団幹部から、じつに清々しい言葉が返ってきた。
「あの決断はあれで良かった、あれしかなかったと思っている」
昨年12月の状況を整理しておく。2年契約が切れた呉昇桓に対して、球団は慰留交渉を行なっていた。
金本知憲新監督は「スンファンありきで考えているから、いなくなったら困ってしまう」と発言していた。絶対に必要な戦力であり、フロントにとって、守護神残留はオフの最優先事項だった。
「もう時効やからな」
そう言って、幹部はある事実を明かした。じつは12月頭には、呉昇桓との契約がほぼまとまっていたという。残留成功は目前だったのだ。
“灰色決着”はあり得ない。
しかし、潮目が激変したのは12月7日だった。「呉昇桓が海外での不法賭博容疑で検察に召喚される」と、韓国メディアが一斉に報じたのだ。
「まだ、どんな決定が出るかわからない」
「疑いが晴れれば問題ないではないか」
そんな声がなかったわけではない。ただ、ここから球団中枢の決断は迅速だった。電鉄本社首脳は、召喚報道を受けた日、ほぼ腹を固めたようにこう話した。
「こうなった以上、白か、黒の決着はあり得ないでしょう。白に近い灰色か、黒に近い灰色か。どっちにしても、そういう決着になるでしょう。うちの球団としては、それでは契約はできない」